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二次『テニスの王子様 ~マムシの初恋~』

kage

2008/10/27 (Mon)

テニスの王子様 二次創作小説

  ~マムシの初恋~

 四月。青春学園中等部の校舎沿いに並んで植えられた桜の木は、満開だった花がいっせいに散り始め、地面をピンク色に染めている。
 テニス部の朝練習を終えた海堂 薫は、ピンク色のじゅうたんの上を足早に歩いて、三年D組の教室に向かった。

 今朝の教室は、いつも以上にざわついている。
「転校生が来るらしいわよ」「えぇ~。かっこいい男子だといいわね」
 などと女子が集まって騒いでいるからだ。
 海堂はその女子の集団にゆらりと近づいていった。女子に何か用があるわけではない。自分の席の周りで騒いでいたのだから仕方ない。ポケットに手を突っ込んだまま、ヘビのような眼で睨んで横に立つ海堂に気が付くと、女子たちは一目散に自分の席に着く。海堂が何かしたわけでもないのに、目が合うと誰もが逃げるように避けていく。
(いつものことだ。気にしちゃいねぇ)
 海堂は自分の席にどかっと座ると、ふしゅ~と息をはいた。

 その時、担任の先生が教室に入ってきた。騒いでいた生徒たちも、慌ててそれぞれの席に着く。しかしみんなの視線は、先生の後ろについて教室に入ってきた、ひとりの美少女に注がれていた。
 肩までのストレートヘアに印象的な大きな瞳。制服が間に合わなかったのか、青学のセーラー服とは違う、前の学校の制服らしきブレザーを着ている。
 ドラマでも漫画でも、転校生は美少女と決まっている。
 にやにやとお互いを突き合う男子生徒。軽く対抗意識を燃やす女子生徒。
 海堂はそんなことには無関心そうに腕を組んでうつむいている。
 先生はざわつく生徒たちを静かにさせて、
「転校生の篠原麻奈さんだ。五歳までこの青春台に住んでいたそうだ。ご両親の仕事の都合で北海道に引越しされたのだが、またこっちに戻ってきたそうだ。小さい頃を知っているヤツがいるかもしれんな」
 そう言うと、美少女が「篠原麻奈です」と挨拶した。
 そして、先生が空いている一番後ろの席に座るように指示すると、麻奈はその席を目指して歩き出す。クラス中の視線を浴びながらも、堂々とした歩き方だ。
 海堂の席まで近づいたとき、麻奈の足がぴたりと止まった。

「―― 薫ちゃん? 」
「……なっ」
 海堂はぎょっとして麻奈を見上げる。

 ―― 薫ちゃん? おい、海堂のこと薫ちゃんってよんだぞ。ぷっ、薫ちゃんだってよ。
 ひそひそと声がする。海堂は驚きのあまり、声も出せないでいると、
「あー。やっぱり薫ちゃんだ! 覚えてない? 私よ、まな。同じ幼稚園だったでしょ? 家も近くだし。うわぁ~、変わってなーい。薫ちゃん」
 無邪気にはしゃいでいる麻奈。
「なんだ、やっぱり知り合いがいたじゃないか。海堂、教科書見せてやれ」
 海堂にとって、先生の言葉は嫌がらせにも聞こえる。クラスのあちこちから、「えぇ~。うそー」と驚きの声が上がる。よりによって海堂とは……。クラス中のみんながそう思ったに違いない。周囲がざわざわと騒がしくなる。だが、それ以上にびっくりしているのは海堂本人だった。予想外の展開にただ固まるしかなかった。

 放課後、テニス部の練習を終えた生徒が次々と帰って行く。部長の海堂は鍵閉めをして一番最後に部室を出た。
 校門を出ようとすると、そこには夕焼けを背景にした麻奈が立っていた。海堂はちらりと見て一瞬足を止めたが、気がつかない振りをして横をとおり過ぎようとした。
「薫ちゃん。待ってたの。一緒に帰ろう」
 そう言って無視しようとする海堂のそばに駆け寄ってきた。
「なれなれしくするんじゃねぇ。それに……」
「それに?」
「薫ちゃんって言うな! 絶対にだ!」
 海堂は背中を向けたまま顔だけ麻奈の方を振り返り、ド迫力の眼で睨みつけた。
 すると麻奈は海堂の凄みにもひるまず、意外そうな顔で言った。
「なんでー? 幼稚園の頃は薫ちゃん、麻奈ちゃんって呼び合っていたじゃなーい」
「お、覚えてねぇ」
 スタスタと大股で歩く海堂の後ろを麻奈はちょこちょことついて歩く。
「ねぇねぇ、薫ちゃん。テニス部の部長なんだってねー。青学ってテニスの名門なんでしょ? そこで部長なんてすごいじゃん!」
「……」
「私もテニス部入ろうかなー。前の学校ではバレー部だったんだけどね。それがへたっぴーでさー。この前もね…」
(まったく女子というのは、これほどまでよくしゃべるのか。よくもまぁ息が続くもんだ。女子ってのはみんなこうなのか。俺が聞いていようがいまいが、お構いなしじゃねえか)
 海堂は女子とこんなに長く話したことが無い。話すといっても麻奈が一人でしゃべっているのを聞いているだけなのだが。その上一緒に帰るなんて、自分のことながら前代未聞だ。何を話していいかわからない。
 猫背気味にうつむいて歩く海堂の少し後ろを、何が嬉しいのか朗らかにおしゃべりしながら麻奈がついてくる。

「ちょっとー。もっとゆっくり歩いてよー。薫ちゃーん」
「だから薫ちゃんて言うな!」
 ギロリと振り返る。
「なんだ。聞こえてんじゃん。反応ないから聞こえてないのかと思っちゃった」
 海堂に怒鳴られても恐れる素振りも見せない。
(こんな女初めてだ……。いや、十年振り…か……)
「ねぇ覚えてる?」
 そう言って麻奈は学生証に挟んだしおりを見せた。海堂は立ち止まって麻奈の手元を見た。
「私が引越しした日。薫ちゃん見送りに来てくれたよね」
 麻奈はさっきまでと違う、静かなトーンで話を続けた。
「薫ちゃんがくれた四つ葉のクローバー。今でも大切に残してあるの。泥だらけになって息を切らして、私の家に見送りに来てくれた。トラックの出発にぎりぎり間に合ったのよね。私に渡すために一生懸命探してきてくれたんだなぁって、嬉しかった。今でも覚えてるんだ」
「……わ、忘れてたぜ。そんな昔のこと」
 慌てたように前に向き直ると、また背中をかがめて歩き出す。今度はゆっくりと。麻奈のペースに合わせて。
 麻奈はほっとしたように、だまって後ろを歩く。

 だんだん薄暗くなった住宅街の細い道。しばらく歩くと麻奈は気がついた。
(あれ? 薫ちゃんち、この角を曲がるんじゃ……)
 海堂の家はこの交差点を右に曲がった奥にある。しかし海堂は道を曲がらず下を向いたまま直進している。そして数分後、麻奈の家に着いた。
(薫ちゃん。送ってくれたんだ。私の家、覚えていてくれたのね……)
 海堂は麻奈の家の前で止まらずに通り過ぎると、だまってどんどん先を歩く。
「薫ちゃん! ありがとう。送ってくれて」
 海堂の後ろ姿に向かって大きな声で言う。
「ちげーよ。いつもここからランニングして帰ってんだよ!」
 焦ったようにそう言って、急に走り出した。

「バイバーイ! また明日。学校でねー」 
 麻奈は近所中に響き渡る大きな声で叫ぶと、走り去る海堂に手を振った。
 海堂は見ていないが構わない。海堂が見えなくなるまで、ずっと手を振って見送った。

 海堂はそのままの勢いで家の玄関に走りこむと、スニーカーを揃えて脱いで台所にいる母親にただいまと言った。悪ぶっていても育ちの良さが自然と出るのだ。
 すると海堂の異変に気付いた弟が顔を覗き込んで言った。
「あれ? 兄さんどうしたの? 顔が赤いよ」
「うるせぇ。何もねぇよ」
「……何かあったな」
 弟はにかりと口元をゆるめる。
(走って帰ったからだ。だから身体が熱くて心臓がドキドキしているだけだ)
 海堂は必死にそう分析しようとした。たかがあれだけの距離のランニングで呼吸が乱れるわけがないのは、自分がよく知っているはずなのに。
 海堂は顔を隠すようにして、自分の部屋に入り、戸を勢いよく閉めた。
 テニスバッグを机の横に置くと、本棚の下の段に何年も前から鎮座している、分厚い生物図鑑を取り出した。ぱらぱらとめくると、新聞紙に挟まれた、四つ葉のクローバーが出てきた。

 十年前、麻奈の引越しの日。公園で見つけた四つ葉のクローバーは二つあった。
 ひとつは麻奈に渡して、もうひとつはここに挟んでしまっておいた。
「あいつ……。こんなもの大事に残していやがった」
 そう呟くと、また丁寧に図鑑に挟んで元に戻した。

 『バイバイ。また明日』

 十年前も聞いた気がする。そう言って麻奈は次の日引っ越して行った。
 けれども、あの時とは違う。明日も麻奈は学校にいる。

 ―― 明日の朝、おはようと言われたら、どう返そうか。どうしたらあいつは薫ちゃんと呼ぶのをやめてくれるだろうか。――
 
 海堂は今まで体験したことのない悩みに、自分でも戸惑っていた。
(こんな時はこれしかねえだろ)
 海堂は制服からスポーツウエアに着替えると、ラケットを持って庭に出た。
 自主トレメニューの素振り千五百回。息ひとつ乱さずに一心不乱にラケットを振り、心を落ち着かせる。
 星がひとつふたつと光りはじめた夜の静けさの中に、力強いスイングの音が響いた。

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この記事へのコメント

kage

>藤咲空方様

テニプリの人たち、あれでも中学生だったんですね。
男子となら普通に話せるのに、女子の前だと話せなくなる中学生。女子にめっちゃ興味あるのに目が合わせられない中学生。
海堂はアニメではかわいく描かれているから、女の子ファンも意外と多いかもよ。
青学レギュラーはみんなかっこいいしモテルと思うんですけど、あの子たち、彼女いないんですね~。いや、でも、バレンタインに栄養ドリンクって。そんな女子中学生いないって!ホステスか! まぁ、乾汁を飲まされてるぐらいだから、栄養ドリンク嬉しいかも。

先生の台詞。「~そうだ」が2回出てきましたね~。自分でもおかしいなと思いつつ、そのままいっちゃいました(汗) 手抜きしてます。
それと、三人称の書き方が未だによく分かりません。麻奈寄りになる時は、行間あけてみましたが、それでいいんでしょうか。本屋さんに置いてある漫画の小説版では、もっとごちゃまぜに複数の登場人物視点で同時に書いてあるから、それを参考にしてしまうと、余計わからなくなります。

Posted at 11:46:33 2008/10/30 by 朔の月

この記事へのコメント

kage

No title

どもども^^

美少女v
本当なんで転校生って美少女か美少年ばかりなんでしょうね。現実はともかく(笑)
海堂の反応がたまりませんな!中学生だったんだねやっぱり。
海堂ツンデレだなぁ。
「お前のためにやったんじゃないんだからな!」的なアレが良かったです(笑)
二人の間に今後どのような進展が訪れるのか期待できる感じな終り方ですね。
先生が麻奈ちゃんを紹介するとき「~そうだ」が多くなってましたよ!
少女漫画定番のベタさって感じで、私は凄い好きですね~vvあぁいいなぁ。

海堂って、絶対コアなファンが居ると思います。
テニス部の部長ということと、あのハードボイルドちっくな性格(多分色々誤解を受けている)とか、テニスのプレイスタイルとか、妥協を許さないその練習量とか。男子生徒の中で(特に後輩に)憧れている子は少なからず居ると思う。
で、ちょっと可愛い子犬系の後輩に「部長!荷物なら僕が運びます!」とか「部長!一緒に練習してもいいですか」とか「部長!」って言われながら周りをキャンキャンしていて欲しい。
ちなみに女子生徒の中にも隠れファンが居て、テニスの試合も応援に来ていると思う。
まだ部長じゃなかった頃から、「不二くーん!」や「菊丸くーん!」という黄色い声援が飛ぶ中埋もれるように「海藤くーん!」って混ざっていると尚よい。
さらに言えば、ぐしゃっと置いておいたタオルが綺麗に畳まれていたり、バレンタインには栄養ドリンクが届けられていたり、世話女房的な女子ファンが居るような気がする(笑)

あぁ、妄想が止まらないv
またテニスな小説書いてくださいね^^
長々と失礼しました。

Posted at 15:09:16 2008/10/29 by 藤咲空方

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kage


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