『記者は何を見たのか』

各地の読売新聞社の記者たちが、東日本大震災の被災地を取材した体験記。


記者は何を見たのか - 3.11東日本大震災

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新聞記事というものは、事実のみを淡々と記述してあるものだ。でも震災記事を読んだ私は泣いたり怒ったり、救出された記事には喜んだりしてしまう。
現場を目撃していない者でも感情移入してしまうほどの悲惨な大災害だったのは言うまでもないが、限られた文字数で被災者の背景までも察することが出来るのは、想像を超える惨状を、途方に暮れ立ち尽くし涙を流しながら書き上げた使命感が、その記事に刻まれているからだ。

この本に書かれた手記には、津波で家族を失った悲しみ、原発事故で故郷を失った絶望、そんな被災者たちの声を伝えきれたのか、自分に何が出来たのか、自分のやるべきことは…と自問する記者たちの悩みや正直な告白が多く書かれている。

ある記者は、被災地の取材に来たものの、被災者のために出来ることがなく、道端に遺体を発見して誰かに伝えても収容しきれず放置するしかないと言われ愕然とした。被災者の求めているのは新聞記者の手ではなく、市の職員や消防隊員の手だ。自分は遠くからやって来て、いったい誰の役に立っているんだ。と虚しさで頭がいっぱいになった、と綴っている。

またある記者は、宮城を取材中、遺体安置所で夫の遺体と対面し乳幼児を抱えた女性が泣き崩れていた現場を目撃する。取材に応じてくれて気丈に語ってくれる女性の前で泣くわけにも行かず、話しを聞き終わるとトイレに駆け込み号泣した、と書いている。被災地で復興復旧が進み始めた一方で、いまだ前に進めず苦しむ人も大勢いる。記者はそういう人を置いてきぼりにせず、現状を伝える義務がある。と書いている。

被災地に足を踏み入れ被災者の話を直接聞いた記者は、遠くにいる私よりもずっと、悲しみ怒りを共有し感情移入している。

そして、この本には原発や官邸について赤裸々に書いた手記もある。
私は地震後、週刊誌やネットニュースで当時の首相や東電社長のおばかぶりを見て怒りが爆発していたのだが、週刊誌なんてウソか本当か分からないからな~と思っていた記事の内容は、どうやら本当だったようだ。
読売新聞の記者が実名を出して、堂々と首相の過ちや、政府の未熟な対応に触れている。
東電の無責任な体質にも具体例をあげて書いている。

たとえば、記者会見の冒頭はメモを取る手が止まるらしい。「このたびの事故により、広く社会の皆さまに…」とマニュアルに沿った決まり文句だからだ。福島県庁に東電社長が訪問したときも、このお決まり挨拶から入ったそうだ。福島県知事に「福島県民に申し訳ないという気持ちがないとダメだ」と言われ「広く福島県民の皆さまには…」と言い直したらしい。そういうことじゃないだろう。
東電は賠償責任から免れるために「予想外の天災だから仕方ない」を繰り返す、あきれた実態。常識がずれている。地震に予想外はありえない。
東電は官庁が関与することになって責任問題があいまいになってしまった、など、「無責任の連鎖」という言葉を使って、ズバッと書いてくれた豊田記者には心から拍手したい。

原発関係の取材記を読んで思ったのは、福島県民は原発の知識が深いことだ。
私は島根原発20キロ圏内に住んでいる。島根は全国で唯一県庁所在地に原発がある。県庁は9キロ圏内。
もし今島根に原発事故が起こったら、そう考えてもどうしていいか分からない。実家も30キロ圏内。人口の少ない島根県は、松江市に人口が集中している。そこが危険と言われて、いったいどこに逃げればいいの?先日の新聞に避難場所の案として載っていたけど、それって原発事故が起こる可能性ありと考えていますって意味だよね。
不安になっても、どうすることもできない。それが原発を抱えた県民の運命でしょうか。

震災直後の被災地はテレビも映らない、インターネットも使えない、ラジオも乾電池がなければ聞けない。そんな中で新聞は唯一の情報源だったといえる。
この本にある78人の記者たちの使命感あふれる記者魂には感動した。新聞はただの薄っぺらい紙。だけどその1ページの裏に、伝える責任に心を燃やす記者がいることを忘れないようにしよう。


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