『心の居場所』

犬夜叉 二次創作小説

――あいつを愛し必要としている者は他にもいる。
    大切に思っているのはおれだけじゃない――

昼間は強がって言ってはみたもの、内心は寂しさに溢れているのだろう。夜更けに一人になれば、少年はいつもここに立つ。星がよく見える時代樹の下。この空は少女のいる世界と繋がってはいない。
毎日睡眠をとらないといけない人間と異なり、妖怪の血が流れる少年には、時間の尺度が違うのだ。ひとりになれば、なおさら時の流れを長く感じずにはいられない。
月夜に光る金色の眼を閉じれば、少年は今は聞こえぬ少女の優しい声を思い出す。

 ――さよならも言えなかった。いや、これは別れなのか――

悲しい別れは知っている。
子供の頃、ただ一人包んでくれた温かい手も。
孤独の中、共に生きようと誓い合った初めての恋も。
もう手を伸ばしても掴めぬ、遠くへと消えてしまった現実を、受け止める勇気を持ったというのに。
誰も信じず、孤独しか知らずに生きるしかなかった少年にとって、少女の強く広い心、安らぐ笑顔、包み込む優しさ、全てが居場所だった。
代わりの場所などあるはずもない。

背後から慣れた気配が近づく。自分に似た匂い。
金色の眼も、白銀の髪も、少年と似ている。
かつては半妖の少年を忌み嫌い、執拗に命を付け狙ったこの青年も、以前のような殺気はない。それは互いに感じ取っている。
切れ長の鋭く冷たい眼は、今は兄の眼なのだ。
慈悲の心が芽生えた青年は、少年の心の内を察しているのか。

「……犬夜叉。きさまはつくづく女々しい奴だ」
「けっ。わざわざそれを言いに来たのかよ。暇な野郎だ」
「かごめは帰るべき場所に帰った。それだけのこと」
「ふん。お前に何が分かる」
「分かりたくも無いわ。半妖の心など……」

無口な青年にしては、今宵はなぜか言葉が多い。
表情を変えずに背中を向け、立ち去ろうとする青年に、少年は星空を見上げながら声を掛ける。それは夜の静けさに合わせた小さな声だったが、青年には届いた。

「おう、殺生丸……。おれはかごめを守ってやれなかったのかな……」

気弱な姿を兄に見せるのは珍しい。それほど心を許せる相手ということか。

「……私の知ったことではない」
青年は冷酷さを崩さない。それとも突き放すのが彼なりの優しさかもしれぬ。
風のように漂い去る青年を、振り返ることなく見送る。

夜が明ければ人間の仲間達と過ごすのが、少年の日課だ。四魂の玉が消滅して以来、強力な妖怪も姿を消した。
楓の村で、昔の仲間と変わらぬ生活。変わったのは、大切な誰かがいないだけ。

瞬間、少年は懐かしい匂いに包まれる。
忘れることのできない、優しい匂い。

少女はいつもここから帰ってきた。初めてこの時代に現れたのもここだった。
古井戸。今は誰も近づかない。
少女の帰りを待ちわびて、度々立ち寄る少年を除いては……。
高鳴る鼓動。逸る気持ち。呼吸を整え、そっと井戸に手を差し出せば、しっかりと握り返す温かい手。

「ごめんね。待っていてくれた…?」
まるで、近場に出かけていたかのような、さりげない再会。

――人間というのは三年でこんなにも女っぽくなるものか
     でも、かごめはかごめだ。優しい匂いは変わっていない――

「バカ野郎… 今までなにしてたんだ」
二人にそれ以上の言葉は必要ない。
長く感じられた三年の月日も、会えない寂しさも、一瞬にして消えた。

やっとみつけた少年の居場所
それは少女の居場所でもある。


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テーマ : 夢小説
ジャンル : 小説・文学

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