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小説『のら猫の住む部屋』 

kage

2008/06/04 (Wed)

これは私が初めて書いた小説です。初心者丸出しだけど修正せずそのまま載せます


    のら猫の住む部屋 



第1章 春海  

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 四月の海は静かだった。空と海の境が分からない程の黒い空間から吹いてくる風は、少し肌寒く感じた。
 夜の海岸。人影がいなくなったのを見計らったように、修司は今日も砂浜を走る。
 修司がこの海辺の町に来て三ヶ月になる。漁師町にしてはよそ者に無関心で詮索したがらないこの町は修司にとって住みやすかった。
 風が冷たいと感じたのは初めだけで、少し走ればすぐ汗が噴き出る。
 修司は目的があって走っている訳ではない。習慣のようなものだ。誰もいない夜の海は誰かに見られることもなく何も考えなくていい。こんな夜更けに、こんな場所で、男がひとり、冷ややかな空気に汗を飛ばしながら走っているとは、誰も思わないだろう。
 走りながら、何気なく目をやると、黒い海面に動くものが見えた。確かに人影だ。ゆっくりと海の中へと入って行くように見える。まずいものを見てしまったと思ったが、このまま通り過ぎる訳にはいかない。修司はフラフラと入っていくその人影を目指して、海の中へと急ぐ。
後ろから近づく水音に気付きもせず、前へ進もうとするその人の腕を掴み振り向かせた。月明かりの下、近づいて初めて見えた。人影は若い女性だった。女は急に腕を掴まれてはっとすると「はなしてよ」と腕を払いのけようとする。
「面倒くさい奴だな。 死にたいなら俺の見てない時にしろ」
 女は修司を見上げると、何かを思い出したかのように動きが止まった。修司はその視線に気付くことなく「ほら、戻るぞ」と言うと、腕をぐいぐい引っ張って浜へと引き返す。女はおとなしく従った。
 浜にバッグと靴が置いてあるのを見つけると、
「これ、お前のか」
 拾って乱暴に渡す。
「ちっ。お前のせいで俺までずぶぬれだよ。おい。こっちだ」

 修司は漁師小屋へ勝手に入って行く。かまわず棚の上からマッチを探り出して、囲炉裏に火を点ける。女はつっ立って修司のやる事を見ていた。
 すると修司はTシャツを脱いで、近くにあった木箱に引っ掛けた。
 毛布を女の足元に放り投げると、火の前にしゃがんだ。
「お前も脱いで乾かしたほうがいいぞ」
 無表情に言うが、それには女は答えず、ブラウスの胸元を掴んだままガチガチと震えながら、戸口の前で立ち尽くしている。
「まぁ、好きなようにしろ」
 修司は座ってまっすぐ火を見ている。女はじっと修司の横顔を見つめていたが、急に決心したかのように、足元にある毛布にくるまってブラウスとスカートを脱いだ。修司がしたのを真似して木箱に服を引っ掛けて火に近づけた。
 しんとした小屋には火の燃えるパチパチという音だけが響いた。時折、夜の風が戸に当たって、きしむ音を立てて小屋が揺れる。その度に、女は毛布を掴んで身をすくめる。風が止むと再び静寂に包まれる。女はこの小屋に入って一言もしゃべらない。何分経ったのだろう。修司は沈黙を断ち切るようにふいに立ち上がった。
「乾いたな」
 独り言のようにそう言ってTシャツを着る。
「じゃあ、俺、帰るから」
 女の方を見もしないで突き放すように言うと、気にする様子もなく足早に小屋を出て行った。

 修司の住まいは、海岸線から道路を挟んで歩いて十五分くらいの住宅密集地の中にある、二階建ての古いアパートだ。
 しばらく歩くと修司は自分の足音の他に、少し後ろからリズムの違う足音が近づいて来ているのに気が付いた。
 この町は漁師町だ。あまり夜に人影はない。足音は海からついて来ている。
 アパートの入り口まで来たとき、修司は足音の主が誰なのか知っているかのように、呆れたため息を付きながら振り返った。
 思ったとおり、さっきの女がいる。修司が急に振り向いたのに驚いたのか、びくっとして立ち止まった。
「何だ?お前。どこまでついてくるんだよ」
 眉をひそめて発した修司の言葉に、女は「私、この町初めて、泊まる所ないし。……今日泊めてもらえないかな?」と怯えたようにそろそろと答えた。
「はぁ? 何考えてんだ。男の部屋に泊まるなんて。何するかわかんねえぞ」
 声を荒げた修司を恐れることもなく、すねた口調で女は言い返した。
「だって。一人で夜道歩くのこわいし。海にいたら、私また自殺するかもしんないよ。死んじゃうよ」
 アパートの前で、突然大声で自殺だの死ぬだの言われたものだから、修司は焦ってあたりを見回す。
「とりあえず入れよ」
 仕方なくそう言って鍵を開けると修司が先に部屋に入った。その後に続けて女も入る。

 六帖一間のその部屋の中は、物はあまりなくて散らかってると言うほどでもなかった。部屋の隅に小さいキッチンがあり、コンロにやかんと小さい鍋が一つ、マグカップが一つあるだけで、食器らしきものはなかった。大きな登山用のリュックが開けっ放しの押入れに突っ込んであった。家具はなく、洗濯してあるのかないのか分からないTシャツやタオルが二~三枚、畳の上に丸めて投げてある。布団はなく、毛布やタオルケットが出しっぱなしにしてあった。
 女は周りを見回して、そろっと部屋の中へ足を踏み入れた。
「今日だけだからな」
 修司は無愛想にそう言うと、毛布を女の足元にどさっと置いた。見知らぬ解せない女にこうも親切にしてやるとは、自分でも意外だった。
「ありがとう」
 修司は聞こえているが何も答えない。
「それから、もう一つ、ありがとう。命を助けてくれて」
 無表情のまま修司は振り返りもせずに、黙々とリュックから寝袋を出して広げ、自分の寝床を作っていた。
 すると、女は部屋の真ん中に架かっている洗濯物干し用のロープを見つけると、
「あのー、カーテンとかシーツとか、ないよね」
 と言いながら、部屋の中を物色し出す。
怪訝な顔で、女を見ていると
「あぁ、これでいいや」
 女はタオルケットやバスタオルを、ロープに広げて洗濯ばさみで挟んで、勝手に部屋を二つに仕切っている。
 さすがに無視し続ける訳にもいかなくなった修司は「勝手に何やってんだよ」と声を掛ける。
「こっちには入ってこないでね。あなたの陣地はそっち」
 女は平然と答えると、指で畳に線を引く。
「覗いてもだめよ」
「……。ちっ 勝手にしろ」
 修司は自分の陣地に入って、背中を向ける。
 女は男臭い毛布にくるまって、すやすやと眠りについた。
 修司は恐ろしく非常識な女の身勝手さに腹が立ったが、まぁ、明日までの辛抱だ。そう自分に言い聞かせて寝ることにした。

 翌朝、修司はいつもより早く目が覚めた。と言うより、ほとんど寝ていない。自分の部屋なのに落ち着かなかった。
 洗面所にいき、蛇口を勢いよく捻り、水を周りに飛び散らせながら、顔を洗った。正面の壁に貼り付けてある鏡を覗いた。無精髭の顔からしずくがぽたぽた落ちる。情けないほど寝不足顔の男がそこにいる。
「はー。ちくしょう」
 ため息をついた。なぜだか悔しかった。
 すると、物音で目を覚ましたのか女の声が背後から聞こえる。
「ふぁ、おはよう」
 幸せそうな声に、修司は少しいらついた。
 修司は女をちらっと見ると、急いで支度を済ませた。支度といっても、歯を磨いて、着替えて、トイレに行って、五分程で終わる。まだ毛布にくるまって、うずくまっている女の方を見もしないで、
「俺、仕事行くから。夜までには出て行ってくれよ。鍵はかけたら、郵便受けに入れといて。じゃあ」
 それだけ一方的に言うと、なぜか急いで玄関のドアに手を掛けた。
 修司は背中に注がれている、確信めいた視線に気付かぬまま、部屋の外に出てドアを勢いよく閉めた。

 第2章 迷い猫

 修司はこの町に来て以来、建設工事現場で働いていた。いろいろな町を転々として、様々な仕事に就いた。
 黙々と働いて汗を流し、仕事が終わると、帰り道にあるいつも同じコンビニに寄り、パンやカップラーメンや飲み物を買ってアパートへ帰る。暗い部屋の灯りを点け、買ってきた食糧を食べ終わると、海へ行き浜辺を走り、終業間際の銭湯へ行く。家に帰るともう、あとは寝るだけだ。
 これが、修司の日課だ。いつもさほど変わりはない。
 それが、今日は違った。
 アパートの部屋の前まで行くと、灯りが点いている。ドアに手を伸ばすと、鍵もかかっていない。
 まさかと思ってドアを開けると、昨日の女がいる。
「おかえり」
 明るい声に意表を衝かれた。
「何やってんだ? お前」
 ドアの前に突っ立ったまま、眉間の皺をさらに深くして修司が聞く。
「今、お腹すいたから、あそこのコンビニでおにぎり買ってきて食べてたところ」
 と、女はまるで留守番していた子供のように答えた。
「そうじゃなくて。なんでお前、まだここに居るんだよ」
「だって、行くところないし。……ああ、でも大丈夫。バイト見つけたから。駅前のスーパー。明日からそこで働くことにしたから」
 さらりと気安く答える女に修司は足音を大きく立てて近づくと、むっとした表情で声を荒げて言った。
「大丈夫って何だよ。どういうつもりだよ。仕事見つかったなら、さっさと出て行けよ」
「だって、アパート借りるお金ないし。しばらくここにおいて」
「見ず知らずの男の部屋に泊まりこんで、何考えてんだ」
「見ず知らずじゃないよ。私、あなた知ってる」
「!」
 予想外の答えに修司は思わず、声にならない声を発した。
「中塚修司。ボクシング元世界ライト級チャンピオン」
 頭が空白になりうまく反応できない。
「私、あの光ジムの近くに住んでたんだ。高校一年生の時。いつも学校帰りに見学してた。だから知らない人じゃないでしょ」
「……ふぅ、 勝手にしろよ」
「それって、居てもいいってこと? やったー」
 何がそんなに嬉しい。この女は何を考えている? 自分を知っている人が、この町にもいた。
 自分を知る人に会うのが嫌で、現れるとすぐ、町を出て行った。だから一つの町に一年以上居たことはない。
 あぁ、また次の行き先を探すのか……。修司は煩わしくそんな事を考えながら、とりあえず、さっき買ってきたパンを食べた。
 
 狭い部屋の中に気まずい空気が生まれた。もっとも気まずさを感じているのは修司だけだろう。
 (女は何をしているのか。背中を向けているので分からない。でも確かにいる。俺のすぐ後ろに。この部屋に自分以外の人間がいるのは初めてだ)
「共同生活するなら、自己紹介しておくね。私、谷川ユキ。二十一歳。よろしく」
 背中を向けて、無言でパンをかじる男にそう言った。
(これって共同生活なのか?勝手に決めるなよ)
 鬱陶しいので考えるのはやめにして、いつもの日常に戻す。修司は洗面器やらタオルやら持って、部屋を出ようとした。
「どこ行くの」
「銭湯」
「待って。私も行く」
 ユキは立ち上がった。
「私、何も持ってないけど、買えるよね。昨日、お風呂入ってないから嬉しい」
(何なんだこの女は。本当に昨日、自殺しようとしていた人間の明るさなのか)

 早足にどんどん歩く修司の三メートル後ろを、ユキは小走りについて行く。女の歩幅に合わせて歩いてやるなんてことはしない。ましてや、並んで歩くなんて雰囲気でもない。
 三十分後、修司が銭湯を出ると、立ち止まって周りを見た。ユキはまだ出てないらしい。仕方がないので道路の向こう側へ渡り、何気なさを装って、電柱にもたれて立った。
 しばらくすると、ユキが暖簾をくぐって慌てて飛び出てきた。
 修司を見つけると「よかった。待っててくれたんだ」と、ほっとした表情で言った。
「別に待ってた訳じゃねーよ」
 修司はうつむいたまま、目だけユキのほうに向けてそう言うと、振り返りもせずアパートの方向に向かって歩き出した。
 しんとした夜空を背景にして、相変わらず二人は黙ったまま、三メートル離れて歩く。

 部屋に戻ると、ユキは当たり前のように、部屋の仕切りを作った。
「じゃあ、こっちで寝るから。くれぐれも入ってこないでね。覗かないでね」
「のぞかねーよ。興味ねーから」
 度胸があるというのか、無防備というのか、頭がおかしいのか。いくら自殺を止めてくれた男とはいえ、昔、顔を見たことあるとはいえ、男の一人暮らしの部屋だ。普通、男の部屋に泊めてくれなんて言う場合は、それなりの行為もありと決まっている。一夜の関係なんてよくある話しだ。
 しかし、そういう女とは違う。自分から男の部屋に上がりこんでおきながら、そのくせ境界線を作って入ってくるなと、勝手にルールを決めている。ましてや、そのまま住み込むつもりでいる。理解できない。だが、そのルールに素直に従っている自分も普通じゃない。
 即席カーテンに仕切られた部屋の中で、二メートル先に人の気配を感じながら、修司はそんな思いを忍ばせていた。

(ユキは、やたら人に懐いてくる捨て猫のようだ。自分に優しくしてくれた人間に懐いて離れない。もしかしたら本当に猫なのかも……)
 なんて馬鹿げたことを考えて、ふっと笑えた。
 修司は、この突然現れた気まぐれな迷い猫を、しばらく家へ置いてやることにした。

 第3章 部屋の灯り

 修司は日が暮れるのを待って、いつものように海へ行き、汗を流す。
 ユキが修司の部屋へやって来て一週間が経った。いつも仕事を終えて海で走ってからアパートへ帰ると、ユキが夕飯を用意して待っている。修司がそうしろと命令したわけじゃないが、ユキがここへ置いてくれるお礼のつもりと言っていた。
 アパートには食器類や調理器具は何もなかったが、ユキが適当に買い揃え、簡単な料理を作ったり、バイト先のスーパーで惣菜を買って来たりしている。
 そろそろユキはバイトから帰って来る時間だろう。修司はシャドウボクシングを続けながら、そんなことを考えていた。
(同棲カップルじゃあるまいし。ただ部屋を二つに区切って、一緒に住んでいるだけだ)
 頭の中に、ちらちらとユキのことばかり浮んで来るのに自分で気付くと、払い取るように首を振って、軽く舌打ちしながら、海をあとにした。

 街灯の灯りがぼんやりと夜道を照らす。駅前に通じる細い道路沿いの、雑草の生えた駐車場の隣に、修司のアパートがある。
 金属製の外階段を登ると、カンカンという高い音が夜の静けさの中に響いた。
 灯りの点いた部屋のドアを開けると、ユキが「おかえり」と言って出迎えた。
 修司は黙って部屋の中に入ると、小さい袋をテーブル代わりの木箱の上に、無造作に置いた。
「ああ、これ。たこ焼き屋出てたから、買ってきた」
 ユキは微笑みながら「ありがとう」と言うと、キッチンに向かった。
「今日はスーパーでお惣菜買ってきたから、お味噌汁しか作ってないの。でもデザート付きよ。修司さん、チョコプリンと抹茶プリン、どっちにする?」
「あ? ユキが二つとも食えよ。女はそういうの好きなんだろ」
 ユキは修司の顔を窺うと、うつむいて恥ずかしそうに、ふふっと笑った。
「なんだよ。二つ食えるの、そんなに嬉しいのか」
「ううん。今、初めて、私のこと、ユキって呼んだ。名前、覚えてくれてないのかと思ってた」
 と言って、また笑った。
 修司は、慌てて目をそらした。
「さあ、食べよ」
 ユキはまだ嬉しそうだ。修司は垂れてきた髪を掻き揚げもしないで、いつものように、黙々と食べた。

 ユキは恋人ではない。ただの同居人だ。ユキも出て行こうとしないし、修司も追い出さない。
ユキは本当にいつも朗らかだ。オムライスがきれいに出来たとか、天気が良かったから洗濯物がよく乾いたとか、そんなことでいつも幸せそうに笑う。
 なぜ、ユキは無邪気な笑顔を自分に見せるのか。自分はユキに優しくもしていないし、ほとんど話しかけもしない。この女の目的は何なんだ? と考えた時もあったが、勝手に自分が捨て猫を拾ってきたようなもんだと解釈してからは、もうそんなことはどうでもよくなった。
 誰かが自分のために食事を作り、自分の帰りを待つ。そして灯りの点いた部屋へ帰る。今までの自分にはありえなかったそんな生活が、脳に考えることを麻痺させている。本当に猫ならばそれでいい、とさえ思った。ただ、この味わったことのない生活が日常になりつつあるなら、何も考えずに過ごせばいい。修司はなぜユキが自殺を考えたかなんて、探ろうともしなかったし、ユキの過去について知りたいとも思わなかった。

 カーテンの向こうでユキの寝息が聞こえる。修司は殺風景なこの部屋で、ひじをついて窓の外を眺める。何分でもそうしている。小さい頃からの癖だ。

 修司は子供の頃、児童福祉施設で育った。施設では職員の人が、食事や身の周りのことなど事務的に面倒みてくれたが、友達も作らず、いつもひとりで周りを冷ややかに見ていた。その頃から、何かを考える訳でもなく、独りでただ、窓の外を眺めるのが癖になった。
 中学になると、あまり学校へも行かなくなった。こんな家庭環境で育った人間がぐれるのは、当然だと思われていたのか、施設の人からも注意されたことは無い。一人で学校を怠けて街をふらついたりしていると、決まって不良グループに絡まれた。だが、けんかだけは強い修司は負け知らずだった。そのうち不良グループも手を出さなり遠巻きに眺めるようになった。
 中学を卒業すると、住み込みの小さな工場で働いた。だが、職場の同僚とけんかしてはクビになり、長続きしないことの繰り返しだ。修司は他人と深く関わるのが苦手だった。苦手と言うより、自分から避けていると言ってもいい。
 そんな修司に、ボクシングをやらないかと声を掛けてきた人がいた。光ジムの会長が修司の才能を見込んでスカウトしたのだった。その後、修司はたちまちランキング上位に上り詰めていった。仕事は相変わらず長続きしなかったが、ボクシングはやめなかった。ただボクシングの事だけ考えて、真面目に毎日ジムへ通った。
 ユキが修司を知っていると言ったのは、おそらくこの頃のことだろうと、修司は推測していた。

 修司は自分を知っている人間に出会えば、すぐその町を出て行った。だが、なぜだか今回はそんな気にならなかった。

 第4章 遠い記憶

 五月になれば、藍色の海はまぶしく光り始める。修司は一人で海に来ていた。
 夏になると、この海も人が増えるだろう。走りにくくなるな。と思った。
 今日は仕事は休みだ。いつもは夜に来ているここに、昼間来るのは初めてだった。夜になれば、波の音と潮の匂いしかしない、無人島のような不気味さを持つこの海は、陽を浴びれば、海の息づかいが聞こえるかのように輝きを放つ。
 修司は浜辺に座って、漁師らしき人や、釣り人が時々目の前を通り過ぎるのを、ただ、ぼーっと眺めて時間を潰した。
 夕方になったので、修司はとりあえずアパートに戻ることにした。ユキはバイトに行っているらしい。部屋はいつの間にか生活用品が増え、何気なく片付いている。仕切りカーテンもタオルケットから大き目のシーツに変わっていた。トイレにいい匂いのするやつが置いてあったのを発見した時は、ここ本当に俺んちか? と目を疑った。自分の部屋はユキにより、小奇麗に変わっていったが、不思議と嫌じゃなかった。居心地のよさを初めて味わったように思えた。

 ふいに玄関のドアの鍵をカチャカチャ開ける音がする。ユキが帰ってきた。
「あっ ただいま。修司さんいたんだ。鍵、開いてたからびっくりした」
「ああ おかえり」
 修司は自分から出た言葉に驚いた。ユキはこの部屋に来た日から、一日も欠かさず修司に「おかえり」と言っている。耳練れない、たった四文字の言葉は心地良く、修司の心の奥に響いた。でも自分が誰かにその四文字の言葉を言うなんて、思いもしなかった。言った直後、照れ隠しなのか、ユキに背中を向けて部屋の隅であぐらをかいた。
 ユキは一瞬、驚いた表情を見せたが、すぐ笑顔に戻って、もう一度「ただいま」と言ってキッチンに向かった。
「今日ね、ハンバーグ作るの。うちのスーパー、ミンチの特売日だったから。すぐ作るね。私のハンバーグすっごくおいしいんだから」
 そう言ってフンフンと鼻歌を歌いながら、手際よく料理にかかった。
 修司は離れたところから、畳に座って、ユキの後ろ姿を見ていた。

 ユキは小柄で華奢だけど、スタイルは良かった。今日は細身のTシャツとジーンズなので、ウエストから脚にかけてのラインがよくわかって、女らしかった。顔は美人と言うより、かわいらしい顔している。顔のあどけなさと、女らしい体つきが、ちぐはぐな感じがする。バイト先の従業員やお客さんにまで、お菓子や果物なんかを、よくもらって帰ってくる。人なつこく、愛嬌の良さで可愛がられ、誰かしらあれこれ物をあげたくなるのだろう、と想像はついた。
 修司はそんなことを考えながら、てきぱきと右へ左へ動く、ユキの姿を眺めていた。
すると、ユキが急に振り返るので、うっかり目が合う。何を考えていたのか見破られた気がして、慌てて顔を伏せた。
「もうすぐ出来るからね」
 そう言って、また前を向き直り、料理を続ける。

 出来立てで湯気を立てているハンバーグと豆腐の味噌汁が並べられた。
「さあ、できた。いただきまーす」
ユキは、一口食べるなり、
「おいしー! 私って天才!」
と嬉しそうに言った。
 ユキはいつも、自分で作った料理を、満足そうに、おいしい、おいしいと言って食べている。
 確かに、ユキの作った料理は、何を食べてもおいしかった。修司が施設にいた頃出された食事は、まずくはなかったが、どこか味気なかった。それは修司の心の問題かもしれないが、ユキの料理は他で食べる食事とは、どこか違う。とは言え、コンビニや牛丼屋くらいしか修司の舌は知らないので、比べようもないのだが。
 それでも修司は一度もユキの料理に、口に出しておいしいと言ったことがない。修司が言う前に、ユキが自分で言って満足しているのだから、言うタイミングを失う。人と深く関わったことのない修司は、人を褒めたり、喜ばせたりする、すべを知らない。修司が一言おいしいと言えば、ユキの笑顔がまたさらに大きい笑顔になるのは想像できるが、ガラじゃないと自分でも分かっていた。
 下を向いて黙々と食べる修司に、「このソース、工夫したのよ」と、機嫌のいいユキは一方的に話しかけ続ける。

「もっと、私、いろいろ作れるのよ。グラタンとか、餃子とか。ロールキャベツも得意なのよ。修司さん、ロールキャベツ好き?」
「そんなん、食ったことねーよ」
 修司は愛想のかけらもない返事をした。
「そう? 食べさせてあげたいな。私のロールキャベツ。今度お給料でたら作るよ。そうそう、クッキーとかも、作れるのよ。でもこの部屋、オーブンないじゃない? 冷蔵庫もないし、調理器具も揃ってないし、私の料理の腕が振るえなくて、残念だわ」
 ユキは狭い部屋を見渡して無邪気に言った。
「そういうことに、しといてやるよ」
 小さなテーブルに向かい合って座る。何もない部屋に透明な時間が漂っている。
「うふふ。ああ おいしい。幸せ」
「お前は、簡単に幸せになれるんだな」
 ずっと下ばかり向いていた修司はふと顔を上げてユキを見た。
「おいしいもの食べたら、幸せになれるのよ。修司さんの幸せって なに?」
 目が合ったので修司は顔を伏せる。
「そんなこと、考えたこともねーよ」
「ふーん。じゃあ私の料理で幸せにしてあげたいな」
 屈託のない笑顔で、ユキは言った。
 そんなユキをみて、つられて修司もふっと笑った。
(笑いながら食事をするのは、どれぐらいぶりだろう。記憶にないほど大昔かもしれない。ユキといると、笑い方を忘れた俺も、自然と笑顔になる)

 食事の後、二人は連れ立って銭湯に行った。ユキが来た頃は、修司が早足でさっさと歩くのを、ユキが数歩後ろを、必死でついて来ていた。だが、最近ではユキの歩調に合わせ、別に話しをするわけでもないが、隣り合わせで歩いている。帰りもどちらかが出てくるのを待って、また並んで歩く。おしゃべりなユキも、黙ってついて歩く。
 ユキがやってくるまでは、修司は毎日銭湯には行ってなかった。面倒くさくて風呂に入らず寝てしまうなんて、ざらにあることだった。だが、今ではユキについて、毎日行っている。女の子を夜道、一人歩きさせる訳にはいかない。すると必然的に自分も毎日風呂に入るハメになる。

「修司さんって優しいよね」
 突然、ユキが口を開いた。
「はあ? 何だよ。いきなり」
「五年前、光ジムで修司さんを見てたって言ったでしょ? あの頃、少しだけ修司さんと話したことあるの。世界チャンピオンの修司さんを見に、たくさん人が来てたよね。私も、その一人だったんだけど」
 そしてユキは、五年前、修司と初めて言葉を交わした日のことを、話し始めた。

 当時、高校一年生だったユキは、学校帰りに光ジムに寄って、修司を密かに見ているのが日課だった。ただ窓の外から、修司が縄跳びやスパーリングをしているのを見ている、それだけで満足だった。スポーツ選手のファンは静かに練習を見守るのが礼儀だと、ユキなりに弁えていた。
 その日も光ジムに向かって歩いていると、急に雨が降り出した。バッグの中には折りたたみ傘がある。急いで喫茶店の軒先に雨宿りして、バッグの中から傘を出した。
 すると、そこへ一人の男が急ぎ足でやってきて、ユキの隣に立つ。修司だった。修司はユキを気にする様子もなく、雨が落ちてくる空を見上げていた。
 ユキは傘を広げて、修司の頭の上に差し出した。
「どうぞ。一緒に入っていきませんか」
「……いえ、結構です」
 修司はユキをじっと見つめて言った。こんなに近くで本物の修司を見たのは、初めてだ。
「光ジムに行かれるんですよね。私もそっちの方向なんです。だから、どうぞ」
 そう言うと
「じゃあ、すいません」
 と言って、素直にユキの傘に入ってきた。
 背の低いユキが修司を入れて傘を持つと、手をぐっと伸ばさないといけない。持ち辛そうな様子に気付いて、
「俺が持ちます」
 そう言って、修司はすっとユキの手から傘を取った。
 光ジムまでの道、二人は黙って歩いた。ユキは心臓の音が、修司に聞こえてるのではないかと思うほど緊張していた。
 ユキは修司の顔をそっと盗み見た。ユキの二十センチ上にある修司の目は、まっすぐ前を見ている。
 ふと見ると、傘は左側に傾いている。かなりユキ側に。修司の右肩は、雨が直接かかっている。おまけに傘から落ちてくる雫もかかって、修司の右半分はびしょ濡れになっている。ユキが濡れない様に気遣いしてくれる、そんな優しさに、ちょっと感激した。
 光ジムに着くと、修司は「ありがとうございました」と素っ気無く言って傘を返し、小走りにジムの中に入っていった。
 ユキはジムの奥へと消えていく修司の後ろ姿を目で追った後も、しばらくそこから離れられないでいた。
 

 そんな話しをユキから聞きながら、銭湯からの帰り道を、修司はユキと並んでゆっくり歩いた。
 修司は、その日のことなど全く覚えていなかった。
(そんな昔から俺のこと知っていたのか。俺はユキのこと何も知らない。名前と歳と、以前、光ジムの近くに住んでいたということぐらいしか。
 ……俺のこと、どこまで知っている……?)
 そう頭に浮かんだところで、足はアパートの前に着いた。

 修司は夜中にふと目が覚めた。のどの渇きが気になって、ふらふらと六畳を出るとキッチンの流し台の蛇口をひねった。水を注いだコップを口へ持っていこうとしたその時、手が止まった。
 修司の部屋は、入り口を入ってすぐの板の間にキッチンがついている。その先の和室の真ん中に、シーツカーテンが垂れ下がっているのだが、完全に仕切られている訳ではない。寝ている場所からは、お互いを隠す事はできても、流し台まで移動すれば、ユキの寝姿が見えてしまう。タンクトップと短パン姿の腰から下が、はだけた毛布からはみ出ているのが目に入った。慌てて視線をずらして、水の代わりに唾を飲み込んだ。
(覗いたんじゃない。たまたま見えただけだ。境界線も踏み込んでない)
「ちっ ユキのやつ、俺じゃなかったら、今頃……」
 そんな思いが頭をよぎった瞬間、自分でも戸惑った。
(俺じゃなかったら……? 俺、そんなにいい奴だったか?)
 一つ屋根の下、一ヶ月以上も一緒に寝泊りして何もないなんて、他人が聞いたら信じてもらえないようなことを、現実にやってのけている。シーツの仕切りなんて、あってないようなものだ。こうやって、二、三歩歩けばすぐ、太ももあらわにした女の寝姿に出くわしてしまう。
(ユキは、さっき俺のこと優しいと言ったが、俺は優しい男なんかじゃない。いい奴なんかじゃない。俺が一番よく知っている)
「信用しすぎじゃねえか……」
 そう呟いて、コップの水を一気に飲み、自分の陣地に戻って、シーツカーテンに背中を向けて横になった。
 修司は暗闇を見つめて、寝返りを打ちながら、拭い去る事の出来ない過去を思い出していた。

 第5章 光と闇

 七年前、光ジムの会長に拾われた修司は、元々素質があったボクサーとしての才能を開花させ、ランキングも一気に駆け上がり、ついには試合七戦目にして、世界チャンピオンになった。世界チャンピオンになったとたん、周りの見る目が急変し、生活も変わる。大金が手に入るし、マスコミも騒ぎ立て、ジムにもファンだという人が、連日押し寄せた。
 でも修司は周りなど気にしなかった。ただ、純粋にボクシングに夢中になり、もっと強くなりたいと思っていた。

 そして、次の試合が決まった。相手はランキング下位クラスの無名の日本人。勝てる自信はあった。ジムの会長も、興行試合のようなものだ、と言った。
 試合当日は、緊張すらしなかった。負ける気などするはずもない。

 三ラウンドまでは静かな展開で進み、多少打ち合いが見られたが、余裕だった。楽に繰り出すパンチも確実にヒットさせていた。相手のパンチも効果が見られない。この分だと、最終ラウンドまで持ち込むことはない。楽勝にKOできる。そろそろ決めてやるか、と相手をロープ際に追い込み、連打を見せた。四ラウンド、相手は倒れ込み、そのままKO勝ちした。盛り上がる観客席。タイトル防衛なんて、あっけないと思った。

 悲劇を知ったのは、控え室に帰ってからだ。
 相手の男がリングで倒れ、意識不明のまま救急車で運ばれ、まもまく、死んだと。
 会長は、「お前のせいじゃない。気にするな」と言った。
 俺のパンチを受けて人が死んだ……。そう思うと、体が震えた。恐怖に似た大きな黒い塊が襲い掛かる。取り返しのつかないこの現実に打ちのめされた。

 しばらくして、廊下で会長とトレーナーの話し声が聞こえた。
「やばいことになりましたね」
「“試合に負けてくれ” とは言ったが、“死んでくれ” とは言ってない。俺たちのせいじゃないさ」
「相手が死んだということは、金は払わなくていいんですよね」
「ああ。死人に口なしだ。黙っておけばわからないだろう。儲けたな。前回もこれで手に入れた世界チャンピオンの座だ。しばらくはいい思いさせてもらわないとな」
 そこまで聞いて、修司がドアから飛び出してきた。怒りに震えながら、二人に近づく。
「ま まってくれ。話しを聞いてくれ」
 言葉を最後まで聞かずに、会長を殴った。
 倒すべき相手はこの男だった。言いようのない屈辱で体が震えた。不思議と冷たい拳を見つめて、もうこいつは汚されたのだ、と思った。金で買った勝利など無意味だ。ましてや人の命を奪ってまで……!
 自分の誇りを叩き潰された。

 修司はそのまま体育館を出て、ジムにも家に戻らなかった。あれほど憧れていた世界を飛び出して、闇へと紛れ込んだ。
 メディアが相手のボクサーの死と、八百長疑惑を関連付けて、面白がって伝えた。
“疑惑のチャンピオン失踪”という文字が、通りかかった本屋に山積みされた、週刊誌の表紙にあるのを見た。
 パーカーのフードを目深にかぶり、うつむき加減にその場を離れた。
 すべて忘れたかった。逃げたかったのだ。
 以来、あちこちの町へ行き、様々な仕事をして生きてきた。自分を知っている人が目の前に現れると、すぐその町を出た。過去に戻されるのが嫌だった。
(俺はチャンピオンじゃない。ただの弱い男だ)
―― 今でも、心の闇は消えない。


 いつもは急いでアパートを出る修司だが、その日の朝に限って、なにやらごそごそと押入れの中を探っている。
「修司さん。今日仕事は?」
「あ、あぁ、これから行く」
 そう言って、焦った表情を隠すようにして玄関を出ると、仕事場とは反対方向に向かって、急ぎ足で歩いた。

 修司は駅前の小さな郵便局に入った。
 窓口で現金書留の封筒をもらい、あて先のところに“○県△市 谷川明子”と書いた。
 書き終えたところで、背後から声がした。
「そこの住所に、今、その人はいないわ」
 焦って振り返ると、ユキだ。
「谷川明子は死んだの。私の母よ」
 驚きを隠せない。鋭い眼差しでまっすぐ見据える修司に、ユキは続けて言った。
「そう。谷川良介は、私の兄なの」
 言葉も出ない。ただ呆然と立ち尽くす修司を見続けるユキに、いつもの笑顔はなかった。

   第6章  真実

 五年前、ユキは病弱な母と兄の三人で暮らしていた。生活は苦しかったがユキは不幸だと感じたことはなかった。諦めていた高校にも行かせてもらっていたので、せめてもの親孝行として、ユキもバイトをして家計を助けていた。
 兄、良介はボクシングのプロテストに合格し、ジムに通いながら働いて家族を支えていた。世界チャンピオン目指して、仕事で疲れていても、夜遅くまでトレーニングを欠かさない兄を、ユキは励まし応援していた。
「世界チャンピオンになればお金が入る。お前たちを楽させてやるからな」と庭で汗を飛ばしながら縄跳びをする兄は勢い立って言った。そんな姿をユキは微笑ましく見ていた。家族思いで努力家の兄が自慢だったし、夢を叶えさせてあげたいと心から思っていた。
 
 そんな時、兄の試合相手が決まった。なんと世界チャンピオンの中塚修司だという。ランキング下位の兄には到底勝ち目はないと、誰もが思っていたようだ。だが、兄は「絶対勝ってやるからな」と意気込んでいる。ユキはきつい減量もして、厳しいトレーニングその上、仕事もしている兄の体が心配だったが、試合に勝つことだけを考えて練習する兄に、何も言えなかった。
 何より、大ファンの中塚修司が相手だ。修司に勝って欲しいという気持もあったが、やはり、兄の勝利を素直に望んでいた。

 試合の途中、なんだか兄の様子がおかしいことに胸騒ぎを覚えた。減量のせいで顔色が悪いのだろうと思ってはみたが、嫌な予感は消えない。
 そして、四ラウンド、悲劇は起きた。

 ユキは週刊誌で事の顛末を知った。週刊誌に書いてあることだから、信用できるか分からなかったが、兄が死んだというのは、疑いようのない事実だ。兄がお金の為に八百長を引き受けたというのは、うそではないような気がした。
 優しい兄だった。家族の為に恥を捨て、プライドを捨て、大金欲しさに魂を売ったのかもしれない。
 兄を殺した男に恋心を抱いていたなんて、兄に申し訳ない気持でいっぱいになった。兄を死に至らしめたのは、あの男だ。しかも、謝罪することもなく、どこかへ行方を晦ましている。修司を恨むことが、兄への供養になるのだと思わずにはいられなかった。
 週刊誌の記者は、容赦なくユキの自宅まで押しかけた。その後、元々病弱な母は、心労のせいか入退院を繰り返すようになってしまった。ユキは学校へも行かず、甲斐甲斐しく母の世話をした。友達が噂している気がして、学校へ行く気がしなくなったのが本心だが。
 こうなったのも、すべてはあの男のせいだ。ユキは腹立たしい気持ちを抑えるのに必死だった。
 そののち卒業すると、ユキは懸命に働いて入院費を稼いだ。そして五年間、明るく気丈に振る舞いながら母を看病し、行方の分からない修司を恨み続けた。それが兄のためだと、夢を断ち切られた兄へしてあげられる精一杯だと、そう必死に思い続けた。母は、そんなユキの笑顔の奥にある、心の闇を気にかけていたのかもしれない。
 
 ある日のことだ、母は病室に見舞いに来ていたユキに、一つの預金通帳をみせた。
 いぶかしく通帳を受け取るユキに母はこう言った。
「良介が亡くなって以来、毎年命日にお金を送ってくれる人がいるのよ。名前も住所も書いてないので、誰かわからないけれどもね。良介の知り合いにも聞いてみたけど、該当する人はいないのよ。いったい誰がこんなことしてくれるのかしらね」
 そう言いながらも、母は落ち着いた表情だ。まるで送り主が分かっているように。それで母は、以来五年間送られてくるお金を、ユキの名義の口座に、使わずにそのまま残してあるという。そして最後にこう付け加えた。
「今まで内緒にしていてごめんなさいね。あなたの本当の笑顔が見られないのは私も辛いのよ。人を恨んで生きていても、幸せにはなれないの。世の中には見守ってくれている人もいるのよ」と。
 まるで遺言のような母の言葉を、夢の中にいる気分で聞いていた。
 そして、その数日後、母は静かに息を引き取った。

 天涯孤独になった私に、いったい誰が手を差し伸べてくれるというのか。
 兄の一件であれだけ世間に非難され、母は病気になった。兄を殺した男も、周りの冷たい人たちも、恨まずにいられるのか。五年間、兄の供養だと思い、修司を恨んできたことは、一体なんだったのか。
 ユキは、そう思えば思うほど悲観に包まれる。
 母を失い、自分の心さえも、何もかも失った気がした。今はもう、恨む気力すらない。たちまち大きな絶望に襲われた。
 そして、冷たい海の中で修司に再会したのだ。


 凍りつくような空気の漂うアパートの部屋で、修司はユキから、兄の死から今までの一部始終を聞いた。二人とも立ち尽くしたまま動かない。しばらくの沈黙のあと、ユキが途切れ途切れに話しはじめた。
「冷たい海の中で、下から見上げた修司さんの目は、五年前、傘の下でみたのと同じ、澄んだ目だった。この時、お金を送ってくれていたのは、この人かもしれない、と、そう思ったの」
 ユキはうつむいた顔を上げて修司を見た。修司は両手を力なく下ろしたまま目を伏せている。
「兄がお金欲しさに裏で細工していたのを知って、送ってくれたのでしょう?償いたかったのでしょう? それを確かめたくて、今まで一緒にいたの。五年間必死に恨もうとしたけど、やっぱり恨みきれなかった。修司さんの優しさは昔と変わっていない」
 ユキは修司をおどおどと見つめた。修司は感情の読み取れない表情で、ずっと畳から目を離さない。ユキはこの話の続きを言うべきか、ためらった。修司の反応が怖かったし、一方的に話し続ける自分が身勝手にも思えてきた。だが、これだけは言わずにいられない。
「修司さんは初恋の人だもの。だから、お金を送ってくれたのが、修司さんだとわかったら、なんだか嬉しかった。兄の供養だと思って、今まで恨もうとした私を、どうか許して」と……。

 修司の頭の中に、様々な感情が駆け巡った。
 この一ヶ月半、ユキと安穏とした生活に浸かり、静やかな人並みの毎日に癒しを覚えていた自分が情けなかった。
 ユキの自分に向けられていた笑顔は、全部うそだったのか。今のみじめな自分を見届けたかったのか。
 必死に避けようとしていた、五年前の過去へと一気に引きずり下ろされた。誰に向けられるでもない、怒り、悲しみ、後悔、絶望、あらゆる感情が一瞬にして頭に押し寄せた。

 長い沈黙のあと、こぶしの震えをこらえながら、修司は低く投げつける様に言った。
「俺の姿を見てあざ笑っていたのか!」
「……違う! 私、この一ヶ月半、毎日楽しくて、ずっと……」
 悲しみと困惑の表情で吐き出したユキの声をさえぎるように修司が叫ぶ。
「復讐したかったんだろ! だから、俺の前に現れた!」
「そうじゃない! 私は……」
 ユキの言葉が終わらぬうちに、修司はユキの腕を押さえ込み、壁に押し付けて、ユキの唇を自分の唇で塞いだ。数秒して、唇を頬にずらすと、
「いやー!」
 悲鳴とも、泣き声とも言えぬ声で、ユキが悲しく叫んだ。
 その声にはっとして、手を放し、ユキから離れる。壁に背を向けて、畳を見つめる。どうしようもない空しさが修司を押し潰した。
(ユキは悪くない。悪いのはいつだって俺だ)
「ちくしょう!」
 髪をくしゃくしゃに掻き揚げて、はき捨てる様に言った。
 大きなため息を付くと、後ろでバタンとドアが閉まり、外の階段を駆け下りる音が聞こえた。

(あんなこと、言うつもりはなかった。気がつくとユキを怒鳴りつけていた。ユキは何も悪くない。なのに、あんなことまで……)
 つくづく、自分の愚かさに腹が立った。

 修司は、壁に向かって座り、あごの下に手をやって、ぼんやりと窓の外を眺めた。
 そして修司は自分を責め付ける。
 一人でいるのが好きだった。だが今は、孤独な自分がやり切れない。逃げることで自分が楽になりたいだけの、未熟な人間だった。あのボクサーの家族の運命を変えたのは自分だ。だから、自分を抑圧して生きなければならない。修司は今までそう決めてきた。絶望と闇の中で、独り過去を引きずって生きる道を選んだ。光の当たった世界で生きていた頃の魂は、もう息絶えている。
 それなのに、それなのに、“ヒトヲコロシタ”消し去ってはいけない現実を、ユキとの安らぎの中で脳の隅に追いやっていた。馬鹿だ。大馬鹿だ。自分を恨み殺したい。

(ユキは猫なんじゃないかと思ってた。だが、猫は俺のほうだった。孤独な野良猫だ。近づこうとする人には警戒し、威嚇する。決して人を信用しない。懐かない。でも本当は、臆病なだけだ。人の温かみを感じてみたい。でも、それは許されない。俺は飼い猫じゃない。温もりを望んではいけない)


 窓の外に、ぽつぽつと雨の当たる音がした。ユキが部屋を飛び出して、一時間くらいはたったのだろうか。
(あいつ、今頃どこで……。そんなに遠くには行ってないはずだ)
 修司は、傘を持って部屋の外に出た。
 すると、アパートのドアの近くの外壁にもたれて、立てた膝を抱えて顔をうずめて座る、ユキがいる。
 すっと近づくと、ユキは顔を上げた。
「ごめん。私、どこにも行くとこなかったんだ……」
 泣きはらした目が赤い。
「…… 入れよ」
 二人は、それ以上なにも言わず、ゆっくりと部屋に入った。

 第7章  後悔

 《ユキの想い》
 いつものように、シーツカーテンで仕切られた部屋で眠った。いいえ、ほとんど寝られなかった。修司さんも同じだろうな。
 修司さんは、あれからずっと黙っている。当然でしょう。昨日私が言った事で、修司さんを深く傷つけ、怒らせたのは間違いない。許してもらえないかもしれない。
 でも今は、いいえ、十六歳のあの頃から、私の中には修司さんしかいない。急に燃え上がった恋ではなく、ゆっくりと心に芽生え、育っていった気持ちは、着実に根を広げている。そして初恋から愛へと変貌していったことを、自分でも確信している。昨日はうまく気持ちを伝えられなかった……。

 いつもなら、仕事に出かける時間なのに、修司さんは起きてこない。気になってカーテンの向こうを覗いてみた。
 修司さんは、座ったまま窓の外を眺めてぼんやりしている。何か言わなきゃ、そう思って近づくと、修司さんが私の方を見て口を開いた。
「昨日のことだけど……」
「ごっ ごめんなさい。謝っても許してもらえないかもしれないのは、わかってる。でも私は、今を大事にしたい」
 修司さんは、昨日のこと私に謝ろうとしたのかもしれない。でも修司さんに先に謝らせてはいけない。悪いのは私だから。
 何か言いたげな目をして私を見つめる修司さんに向かって、私は言う。
「あのー。私、今からバイト行くけど、修司さん、今日仕事は?」
「……ああ。あとから行く」
 修司さんは力なく呟くように言った。
「そう。じゃあ、夕飯作って待ってる」
 まだここにいたい気もするけど、バイトに遅刻する……。名残惜しい気持ちを残して、玄関のドアに手をかけた。
 修司さんは珍しく私をじっと見ている。いつもなら、目が合うと恥ずかしそうに目をそらすのに……。
 笑顔を作ると「いってきます」そう言って、ドアを閉めた。

 バイトを終えると、食材を買い込んで急いでアパートに帰った。
 すぐキッチンに向かって食事の支度をしよう。
 修司さんが帰ってきたら、ちゃんと伝えよう。私の今の正直な気持ちを。恨んでなどいない、修司さんへの想いを。
「ロールキャベツ、喜んでくれるかな」
 そんな独り言を言いながら、コンロに鍋をのせる。煮込んでいる間、部屋でも片付けよう。
 向き直って、和室に足を踏み入れたその時、思わず立ち止まった。
 ふっと、違和感のある空気が私をなでる。
 何か違う……。
 部屋を見渡すと、いつも散らかっているはずの、修司さんの服がない。コップも、歯ブラシも……。
 押入れを開けると、修司さんのリュックがない。修司さんのものは、なにもなかった。
 信じられないこの現実を、受け止めるのに時間がかかった。嘘と思いたい。神様はどうしていつも、私から大切な人を連れ去るのだろう。
 私は、へなへなと座り込んでしまった。
 修司さんは、それっきり、アパートには戻らなかった。

 窓からふきこむ風の温度も変わった。私が小さな植木鉢に蒔いた朝顔が芽を出し、やがて窓の手すりに巻き付いて青い花を咲かせた。修司さんにも見せたかったな。
 修司さんがアパートを出て三ヶ月が経とうとしている。
 私は、不意に帰ってくるかもしれないと思って、アパートを解約せずに、そのまま住んだ。
 食事も、毎日二人分用意した。
 食事の時には、いつも思い出す。
――ついこの前まで、修司さんは確かにここにいた。
――目の前で黙々と食べ、背中向けて座る、修司さんがいた。
 思えば思うほど寂しさは募る。そして毎日、後悔の念に襲われる。
 私が本当のことを言わなければよかったのかも……。でも、いずれは分かるかもしれない。そうすれば、余計に傷つける。修司さんは怒って出て行った。私の顔も見たくなかったんだ。私は嫌われた。
 そう考えると、決まって涙がこみ上げてきた。
 修司さんと暮らした記憶が、私の胸を痛めつける。
 私が想うほど、修司さんは私のことなど想ってはいなかった。
 私の心に住み着いた、深く一途な初恋は、もう修司さんに届くことはない。

 夏の暑い日、私は二人で暮らしたアパートを引き払って、この町をあとにした。


  第8章  心の居場所

 灰色の空から、小さな雪の粒が舞い落ちて、次第にアスファルトの地面を白く覆いつくす。
 東京にも、この冬初めての雪が降った。

 東京のとある体育館で、今日の夜、ボクシングの試合がある。
 会場は活気づいていた。

「おう、修司。そろそろ始まるぞ」
 修司は小さくはいと言って、椅子から立ち上がった。
「普通、お前のように長い間試合をしなければ、タイトルは剥奪される。だからマスコミの過熱した報道に便乗して、チャンピオン戦を組んだんだからな」
「……わかってます」
「お前は人気あるからな。メディアも取り上げて話題性もある。今日も新聞社やテレビ局がたくさん来てるぞ」
 修司はグローブをはめながら、そうですかと言った。朴訥とした修司の受け答えに反するように、張り詰めた空気が充満する。
「ボクシングに興味のない連中まで騒いでるからな。ボクシングの世界は所詮、興行重視。チケットも完売だそうだ」
 グローブの紐を結んでもらうために、修司は黙ってトレーナーに腕を突き出したあと、小声ではぁと言った。
 試合直前の控え室。興奮気味の会長の言葉に、修司は気の無い返事を繰り返す。

 修司は、東京のボクシングジムに、ある日突然「練習生からはじめたい」と言って現れた。
 ボクシング関係者が、修司の顔を知らないはずがない。すぐ現役復帰できた。自己トレーニングを続けてきた修司は、五年のブランクを感じさせない。自らリングを去ったとは言え、その実、心の奥底には、いつでも復帰できる身体を作っておきたいという思いがあったせいかもしれない。
 以前、修司が就いたことのある、世界ライト級チャンピオンの座。
“疑惑に隠れ、消息不明のボクサーが、ベルトを取り返しに復活”とスポーツ紙の好きそうな話題に、各社飛びついて記事にした。
 元々、やらせの色が強いテレビ局も、八百長疑惑の真相解明はどこかへ消え、修司の今日の試合中継で高視聴率を獲得しようと熱を入れている。


 《修司の想い》
 俺はマスコミの話題など、どうでもよかった。
 俺はもう一度ボクシングを始めないと、前に進めない。このままでは終われない。己自身に決着をつけるために、この試合はある。
 現実から逃げ、煩わしさから避け、さ迷っていた自分を捨てて、ボクシングに熱中していた頃の心を取り戻したい。自分の手でチャンピオンを勝ち取りたい。
 もう、ユキに会うことはない。どこかで幸せに暮らしていて、もしこの試合のことが、耳に入れば、それでいい。

 ずっと独りで生きてきた。孤独で寂しいとは思わなかった。そんな俺が誰かを想い苦しむ辛さを知った。
 二人でいることの安らぎを知ると同時に、ユキの屈託のない笑顔が、俺のために曇るのを見たくなかった。
 どこかで笑顔でいれば、それでいい。ユキを忌々しい過去から断ち切るためには、俺がそばにいてはいけない。

 これでいいんだ、と言う俺。
 これでいいのか、と言う俺。
―― 心はどこにある――
 俺の中の、もう一人の俺が叫ぶ。
 心は、ユキを求めてさ迷い続ける。
 ユキを想う気持ちが、密かに俺の中に生息していることを、ごまかしきれずにいる。
―― 心はどこにある。俺の心はどこにある――
 容赦なく叫び続ける。
 俺の心は、紛れもなく、ユキのそばある。
 どこにも居場所がなかった俺の、心のあるべき場所は、ユキだ。
 体はそばにいなくても、せめて心はそばでユキを感じていたいと願う。そんな、ちっぽけな男だ。


 ゴングが鳴り、試合は始まった。
 相手は初防衛のメキシコ人。修司は一ラウンドでいきなりダウンして、マイナスポイント取られた。ペースを崩し、パンチの数が極端に減る。五ラウンドから必死に追い上げ、両者互角の打ち合いになる。相手もフラフラになっているのは、誰が見てもわかる。このまま時間を稼がせやしない。修司は右ストレートで相手からダウンを奪う。有効打を打ち込み積極的に攻める。

 九ラウンドが終わり、一分間の休憩に入った。コーナーの椅子に座り朦朧とした意識の中で、ふと顔を観客席の方に向けたその時、修司の目ははっきりとユキの姿を捉えた。
(ユキが来ている!)
 心が叫んだ。確かにユキだった。観客席の後ろのほうで、祈るように手のひらを合わせて、まっすぐ修司を見ている。
 その直後、十ラウンドのゴングが鳴った。修司は椅子から勢いよく立ち上がって、相手を睨む。
“ユキが見ているかもしれない”から“確実に見ている”に変わった瞬間、体の奥のほうから力が湧き出てきた。どこからそんな力が出るのか、体中が熱くなるものを感じた。
 あとはどうなったか覚えていない。体が勝手に動き、試合の優劣も分からないまま進んでいく。
 そのまま最終ラウンドのゴングが鳴り、判定にもつれ込んだ。

 椅子に座らされて、セコンドがタオルや水を次々と修司の前に持ってきては、肩を叩いて声を掛ける。
 結果が出るまで待ちながら、目はユキを探す。さっきいた場所に、もうユキの姿はなかった。
(―― ユキ、どこにいる)

 その時、レフェリーが修司の腕を掴み、高く挙げる。場内アナウンスが修司の名前を呼んだ。観客席からどっと歓声があがる。
 修司の周りは、記者やカメラマンに大勢取り囲まれ、マイクを突き出される。
 修司は、人だかりの真ん中で、必死にユキの姿を探す。
(―― ユキ、どこだ)

 修司は人垣をすり抜け、リングを飛び降りる。湧き立つ焦燥が、体を走らせる。群がる観衆を掻き分け、会場のドアを勢いよく開けて、廊下に飛び出した。
 今、試合を終えたばかりの汗まみれの体で、さらに走ってきたせいか息が荒い。
 修司は肩を上下に揺らしながら、廊下の向こうに、盛り上がる歓声を背にして、ゆっくり体育館の出口に向かって歩くユキを見つけた。
「ユキー!」
 胸の底から振り絞った声で叫ぶ。
 ユキは一瞬、立ち止まって、泣きそうな表情を見せ振り返った。
 修司は、揺るぎない確信したような目でユキを見ると、一気に駆け寄り、ユキを抱きしめた。

 修司の頭の中を支配していた、複雑な感情はどこかへ消え失せた。
 今は、ユキが目の前に、在る。
 もう一ミリも離れていたくはなかった。
 修司の心の闇に、今一点の灯がともった気がした。

 ユキは修司の広い胸に、涙あふれる顔をうずめながら、小刻みに震えていた。だが修司の背中にまわした手は、しっかりとして戸惑いはない。修司はその手から、確かな決意が伝わるのを感じていた。

「いたぞ! こっちだ」
 大勢の報道陣が、二人を見つけるなり、いっせいに押し寄せ取り囲む。
 シャッター音が響き、リポーターがマイクを向けて騒がしく捲し立てるざわめきの中、二人の空間は、静まり返っていた。まるで二人しかいない森閑の果てに吸い込まれたかのように。修司は優しい静寂に漂いながら、ようやく閉ざされた扉を抜け出そうとしていた。


 翌朝、修司はボクシングジムに来ていた。
 軽快な音楽が流れるジムには、一夜にして世界チャンピオンになった男を、ひと目見ようとする見物客や、テレビの撮影や雑誌の取材で、人があふれていた。
 修司は普段通りの練習メニューをこなそうにも、タレントのようにカメラを向けられては集中できない。それでも絆創膏だらけの顔で無愛想に対応していたが、ボクシング以外の質問や、空白の五年間何をしていたか、とあれこれ追求されるのに、うんざりしていた。
 会長は自分のジムから世界チャンピオンが出たせいもあって、始終上機嫌で無口な修司に代わって取材を受けていた。

 一通り取材も終わり、マスコミ陣もはけ、見物客がいなくなったところで、会長が言った。
「今日は、祝杯だ。もう何を飲んでも、食べてもいいぞ。みんなで夜通し、飲み明かすぞ。いいな」
 修司は、今まで見せたことのない、すがすがしい顔で答える。

「いや、やめときます。家で猫が待っていますから」


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