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魔人探偵脳噛ネウロ12~14巻 あらすじ&感想

kage

2012/09/30 (Sun)

 ネウロへの借金返済のためバイト探しに奔走する弥子。そこで偶然「Ⅹ」のパートナーのアイと遭遇する。アイの正体を知らない弥子は、見ず知らずの親切な女性と思い込んだままアイの手助けで大金を得て、借金地獄から開放される。アイは弥子の適応力と度胸に着目し、ひとまずその場を去る。
 その後事務所前で吾代と笹塚が鉢合わせ。血の気の多い元ヤクザの吾代と冷静沈着の刑事笹塚は反りが合わず一触即発のムードに。
 その頃事務所内では幼女睦月が弥子たちの帰りを待っていた。おじいちゃんが命を狙われているので身辺調査をして欲しいと言う。謎の気配を察してネウロは捜査開始。だが翌日老人は殺されてしまった。
 警察とネウロに吾代も加わって捜査が進み犯人を追い詰めるも、睦月が人質に取られてしまう。危険な状況だがネウロは「我が輩が助ける必要は無い」と。なぜなら、水と油だった吾代と笹塚が協力し合い連係プレーで見事犯人を捕らえたからだ。
 ネウロは言う「人間にはそれぞれ最良の使い方がある」得意分野を活用すれば魔力を浪費しなくても謎を喰うことができるのだと。これまで人間を下等動物のようにしか見ていなかったネウロに、人間への興味と信頼が育ってきた。その変化を弥子は感じ取っていた。
 一方、捜査途中で情報屋から笹塚の過去を聞かされた吾代は不審の念を抱くのだった。

 その頃、あの男も動き始めていた。
 怪盗「Ⅹ」はHALのデータをコピーし脳に取り込むことで、電子ドラッグの性能を手に入れた。標的はネウロ。
 そうとは知らないネウロと弥子は、毒ガスが発生した山村に足を踏み入れていた。そこで殺人事件が発生した。けれども喜ぶはずのネウロのテンションが低い。この謎は違和感があるというのだ。
 いつものように謎解きを始めようとした瞬間、犯人が超人的な力で飛び去った。犯人は「Ⅹ」が用意した刺客だったのだ。ネウロは混乱する弥子を置いて、犯人を追いかける。逃げられた上に謎が食えないのはプライドが許せない。だが犯人には別の目的がある。ネウロが油断して弥子から目を離した隙を狙って、弥子が「Ⅹ」に連れ去られてしまった。
 拉致された弥子が目を覚ますと目の前に「Ⅹ」とアイがいた。「Ⅹ」と出会った当時は名前を聞いただけで震え上がっていた弥子だったが、「Ⅹ」の天然で無邪気な性格をじかに目にしたせいか、自然に話しができるほどになってきた。
「今度こそ自分の正体を解明して元に戻る」という「Ⅹ」に、弥子は単純に疑問を投げかけた。「今の自分が本当の正体じゃないの?」と。真意が伝わらなかったのか、カッとなった「Ⅹ」に電子ドラッグを見せられ弥子は洗脳されてしまう。だがアイは弥子の言葉に心を揺り動かされていた。「Ⅹの正体を明かすのはネウロではなく弥子なのでは」と。

 一方、警察でも動きがあった。刑事笛吹の古い友人で国際捜査員のアンドリュー・シクソンが怪盗「Ⅹ」を逮捕するために来日した。アンドリューには見聞きしたことを瞬時に記憶する能力がある。彼が言うには、国際指名手配中の特殊工作員・イミナが「Ⅹ」と行動を共にしている可能性があるのだと。さっそく笹塚と調査に出かける。

 数年前、イミナは搭乗した飛行機内で毒ガスを仕込む任務を遂行中、隣に座った人物が次々と「変わっていった」のを見て驚愕する。その人物こそ怪盗「Ⅹ」。限界のある人間と絶望的な世界から自己逃避していたイミナは、限界を超える「Ⅹ」の存在を見知り、彼の中身を自分も確かめたいと切望し「Ⅹ」の従者となった。その日から自らをアイと名乗るようになった。

 弥子が連れ去られた3日後、ネウロは「Ⅹ」の残したメッセージカードから弥子の拉致現場を突き止める。同時にアンドリューと笹塚も場所を探り当て急行する。アジトはなんと警視庁本部の地下。
 現れたネウロを「Ⅹ」は弥子に化けて出迎える。加えて電子ドラッグで洗脳し「Ⅹ」の動きとシンクロさせた弥子と一緒に、『二人の弥子』で攻撃してきた。「俺たちの見分けがつくかな」と自信満々で攻めてくる「Ⅹ」だが、ネウロは簡単に見破った。その上HALの謎を喰って満腹のため至近距離からバズーカを撃たれても傷ひとつ負わない。
 ネウロからの厳しい懲らしめを加えられ深手を負った「Ⅹ」は屋上へと逃げる。駆けつけた笹塚たちと洗脳が解けた弥子とネウロで後を追った。
 ヘリで迎えに来たアイと逃げる手はずだった。だがしかし、「Ⅹ」がヘリに飛び乗った瞬間、操縦席のアイは頭部を撃たれて即死。ヘリは撃墜する。銃を撃ったのはアンドリュー。さっきまで仲間だと思っていたアンドリューが顔の皮を剥ぐと、中から邪悪な圧力を放つ男が現れた。男は自らを『新しい血族』の先端にいる者、「シックス」と名乗った。
「シックス」は「Ⅹ」に向かい「名も無き我が子よ」と言った。シックスの口から「Ⅹ」の正体が明かされる。
「Ⅹ」とは「シックス」のクローンから改造した実験体。生後5年を強化ガラスの中で成長させ、変異細胞の経過観察のデータを取るために社会に出した。それを今、回収に来たのだという。
 あれほど知りたかった自分のルーツ。過去の思い出や無くした記憶など元々無かったのだ。茫然自失の「Ⅹ」を連れて、「シックス」は高速で飛び込んできた無人戦闘機に素手で捕まり逃走した。想像を絶する出来事に警察は成すすべも無い。
 弥子はついさっき誘拐されたと言うのに、「Ⅹ」を心配する。ネウロは人間でも魔人でもない「シックス」が何者なのか、知りたがっていた。
 そんな時、ネウロへ「シックス」からお茶会のご招待。そこで「シックス」は『定向進化』について説明する。 動物の交配で行われる一つの方向へ突き進む定向進化。これと同じことが7000年前、一族の中で「悪意の定向進化」として進められた。こうして強い脳と悪意を持つ血族が出来上がった。それが『新しい血族』。自分はその頂点にいるのだと。世界には100人の血族がいる。血族が栄えるためにそれ以外の人間を殺すのが目的なのだという。
「シックス」が人間の数を減らせばネウロの食料である謎も減る。それは魔人の本能として許せない。つまりネウロと「シックス」は敵対関係にある。「シックス」はネウロの目の前で大勢の人間を殺して見せた。ネウロは強い不快感を表わす。これまで誰かに本気の敵意を表わしたことの無いネウロが始めて見せる嫌悪の表情。
 人間にとっても有害な悪の存在「シックス」が、これからどんな「病気」を撒き散らすのか…。

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 アルバイト探しのときにアイが弥子に言ったアドバイス「可能性無き絶望ほど怖ろしいことはないのだから」。これは自分の過去を振り返って出た言葉なのでしょうか。それと弥子が言った「私を見る視線はネウロのものと似ていた」これはつまり弥子の可能性に期待する目。アイは弥子に何か感じるものがあったようです。
 アルバイト大作戦編はただのギャグの回と思いきや、後々に影響する伏線があちこちに張られていました。 
 弥子とぶつかったときに散らかった荷物。これも後で大事な記憶として使われます。それとアイが気づいた弥子に付いている虫。ネウロが弥子を監視するために付けた魔界虫です。これは噛み切り美容師のときにもいました。ネウロは弥子が側にいないときにも目が届くようにしている。ただし今回の毒ガスの山村では敵を追うのに夢中で察知が遅れたのか、魔界虫は飛んでいたのにネウロは弥子への注意を逸らしてしまった。でも見捨てず救出しに行くところを見るとネウロにとって弥子は大事なんだなぁと。「いまさら別の奴隷を探すのは面倒だから」という理由じゃないと信じたい。
 それと、吾代と笹塚の出会いも意味のあるもの。笹塚の隠された本性を知る人物として吾代は後に重要な役目となります。玩具メーカーの老社長殺人事件で笹塚が言った復讐についての意味深な発言。これに反応したのも吾代でした。少しずつ読者にヒントを与えてくれています。
 そして驚くべき伏線はアイことイミナが飛行機で会った「Ⅹ」の姿。次々に違う人間に代わっていく途中で現れた少女は、実は「Ⅹ」の本当の姿だったのです。自分の本当の正体がわからなくて探している「Ⅹ」。自分もそれが知りたくて行動を共にするアイ。ところが二人が気がつかないうちに、すでに目にしていたという。22巻の回想で「Ⅹ」が「どの顔で固定すればいいか」とアイに聞いたとき、一瞬少女の姿になったのに、アイは「いつもの顔でいい」と戻させています。これも悲しい運命とでも言うやつですか。
 弥子が「Ⅹ」の正体を知るきっかけになるのではと、期待したまま死んでしまったアイさんですが、もうあなたは本当の「Ⅹ」に会っていますと教えてあげたい。
 けれどもアイの期待もあながち間違っていません。「Ⅹ」の正体を知らされたのはシックスからですが、アイの予想通り、ある意味「Ⅹ」の本当を取り戻すきっかけを作ったのは弥子。これは最終回近くで出てくる話ですが、このアイの予想も伏線。
 アイがあっさり死んでしまったのはショックでした。敵とはいえ印象的なキャラなので。でももっと衝撃的なのはシックスが手下にノコギリで自分の腹を切って自殺しろと命令する場面。画では飛び散る血とギコギコの擬音だけなのに、嫌な想像が掻き立てられ、こいつの恐ろしさが強調されます。
 そしてシックスとネウロのドSサミット。犯人の話になど興味がなかったネウロが、シックスの御託にじっと聞き入っています。ネウロの「プライドを取り戻せ人間どもよ」かっこいい台詞ですが、これは強要されて殺人をするのではなく自分の意思でやれってこと。いや、どうなの。これって…。
 去り際にネウロがシックスに「Ⅹはどうしている」と聞いています。これは弥子が「Ⅹ」を心配したのを受けて代わりに聞いてあげたのでしょうか。はっきりと変化が現れるネウロの人間的な感情。
 最後のページの「容赦なく人が殺されるだろう。私の身近な人ですら例外でなく」の背景に頭を打たれる人の絵。これは一体誰のことなのか。まさかあの人とは、この時点では思いませんでした。 
 悪の人間と人間を守る魔人の闘いは、いよいよ始まります。


魔人探偵脳噛ネウロ9~11巻 あらすじ&感想

kage

2012/09/24 (Mon)

 電人HALを追ってネットの世界へと潜り込んだネウロだが、3体の援護プログラム『スフィンクス』に攻撃され押し戻された。しかしネウロは諦めない。それほどの大容量のデータを送り込ませるにはスーパーコンピューターが必要。国内のスパコンは数が少なく場所も限られているので、HALにコントロールされているスパコンを探し出して壊せばいい、というのがネウロの見解。
 そして、まず二つのスパコンを見つけ出し破壊に成功した。そこでHALから言われた「まるで無力な操り人形」の言葉に弥子は傷つく。私が行かなくてもネウロ一人で敵を倒すことはできる。私はいる意味が無いと……。
 同じ頃、元ハッカーの刑事篚口結也は、電子ドラッグに対抗する特効薬のプログラムの制作を完了させていた。
 中毒患者たちが電子ドラッグにアクセスすると、そのページをハッキングしワクチンを脳へ刷り込み元通りにする手はずだった。ところがそのすべてをHALは計算済み。中毒患者たちはワクチンの反転映像を見せられても、もう一度反転して受け入れるようにプログラムされていた。篚口の特効薬作戦は失敗し、逆に篚口が電子ドラッグ映像を見せられ、HALに支配されてしまった。
 ネウロたちが3つ目のスパコンが置かれた場所へ行くと、そこで待ち受けていたのは篚口。篚口はスパコンをトレーラーに乗せ、山奥へと逃げる。後を追うネウロだが、これは篚口の巧妙な罠。ネウロは車ごと谷底へ落ちてしまう。弥子の救出を優先したネウロはかなりのダメージを負い絶体絶命のピンチ。
 ドラッグに冒された篚口は、狂乱しネウロを殺そうとむきになっている。しかし弥子は見抜いていた。篚口が操られていないことを。洗脳されている人間は罪の意識が無い。でも篚口には罪悪感があるからだと。
 弥子のお陰で冷静になれた篚口。ネウロが3つ目のスパコンを破壊したが、時はすでに遅し。HALは次なる手段を用意していた。
 HALは東京湾に入港した原子力空母を乗っ取り支配していた。さらに政府に世界中のスパコンを空母に運び込ませるように要求した。
 急いでネウロが再びネットの世界へ侵入するも、直前にHALは新しいスフィンクスをインストールさせていた。しかもHALのいる奥へは「パスワード入力」の壁があり、到達できない。
 そのとき、ネウロが血を吐き倒れた。謎を食えず空腹の上に、これまでに受けた傷のダメージと魔力の大量使用で体力の限界に来ていたのだ。
 ネウロは弥子に指令を出す。自然治癒で回復するまでの3日間で、弥子がパスワードを解読しろと。重要なパスワードほど制作者の感情に沿って設定される。だが魔人のネウロには人間の心情は読み取れない。そのため弥子がパスワードを解くしかないのだ。一度でも間違えれば原子力空母が破壊され、首都圏は放射能の海になる。HALはヒントを与えた。パスワードは私の目的そのものだと。
 弥子にできてネウロにできないこと。それは人間の心を深く知ること。弥子はネウロの期待に応えるため、世界を救うため、私がやるしかないと決意しパスワード解読のための資料集めに走る。

 一方、ネウロは早坂兄弟にある物を調達させ、空母に乗り込む準備をしていた。
 弥子は、たくさんの資料の中にある春川教授の講義映像から、何かを感じ取りひとつの推測を浮上させる。そして3日目の朝、これまでに掴んだヒントからある一つの答えを導き出した。
 早坂の用意した軍用ヘリで空母に乗り込むネウロと弥子。さっそくネウロがネットの世界へと潜り込みHALと向かい合う。同時に弥子はパスワードを入力。解読は成功したのだ。
 ネウロとHALを隔てていた壁は取り除かれ、ネウロは大量で良質の謎を喰った。狂喜して兵隊たちを倒し暴れまわる片方で、すべてを封印され動きを止められたHALが現れ弥子に問う。どうやってパスワードを解読したのかと。弥子は語る。空母を乗っ取り世界中のスパコンを手に入れ電子ドラッグで兵隊を洗脳し、そこまでしてやり遂げたいHALの目的とは何かを。 ――それは「ある人物を0から作り出すこと」
 HALは春川の過去を語り始めた。
 
 数年前、春川は脳に難病を抱えた患者の治療施設に勤めていた。被験者本城刹那は、脳のコントロールを失い脳細胞が破壊される前例の無い病に侵されていた。春川は彼女の治療に全霊を尽くしていたが、その甲斐もなく彼女は息を引き取った。
 絶望した春川はデジタル世界で刹那を構築させる研究に情熱を注いだ。しかし、何年かかっても何度計算を繰り返してもとても足りない。生身の人間である春川が生きている内には成し遂げられない。そう悟ったからHALは春川を殺したのだと。HALでさえ世界中のスパコンで何百年も計算し続けても刹那を再構築するのは未知数だ。
 だがネウロに破壊された今となればHALの計画も続行不可能。外部の人間が消去するしかない。その役目を弥子にやれと命じる。HALは電子ドラッグのワクチンと消去画面を弥子に見せる。HALの苦しみが理解でき同情する弥子は一度は拒否するも、震えながらエンターキーを押すと、HALは少しずつ消え0に近づいていく。その時、HALが見たものは……。
 大切な人を失う辛さが痛いほどわかる弥子は、涙が止まらない。そこへ機嫌よく現れるネウロ。弥子の活躍を称え「貴様は泣くのではなく笑うべきだ」というネウロの手を払いのけ、「あんたにはわからない」と弥子は声を張り上げる。ネウロは気にすることもなく、「日付も変わった。帰るぞ」とひと言。嵐のような数週間は終わった。
 
 1週間後、日常が戻った弥子とネウロは、中毒者に襲われ壊された事務所の家具を買いに出かける。するとまた事件が…。ネウロが謎を解き、新しい家具も手に入れ、すべてが新しくまわり始めたと思われたが、その裏である人物も動き始めていた。
 一方では、軍事ヘリ代の借金返済のための、弥子のアルバイト大作戦開始です!





 HALが消去されたときの弥子とネウロの温度差。「貴様は泣くのではなく笑うべきだ」の台詞は1話の父親の葬式のときにも言っています。まったく空気の読めない男です。魔人ゆえの無神経さとでも言いましょうか。ネウロは謎が喰えさえすれば人の感情などどうでもいいですから。感情がわからないと言いつつも、弥子に嫌味を言ったり嫌がらせをしたりするのは、人の心を理解しているからこそだと思いますが、そこはツッコミません。
 ネウロは常時、事件の動機には関わろうとせず謎解きを進めていきます。二時間ドラマで例えるなら、断崖絶壁で犯人が動機を話し出す一番のクライマックス場面だとしても、興味もなく無関心な顔をしています。二つ目のスフィンクスを壊しに行った時も同じでした。だからHALの動機を探るなどお手上げで弥子に任せた。合理的でもあり結果的に成功だったわけです。ネウロに男女の愛情なんて理解不可能でしょう。
 しかしながら、ネウロの「日付が変わった」の言葉の意味は、弥子の進化を認めた証。前回の噛み切り美容師のときに言った言葉はここで活かされます。弥子の成長を日付に例え表現しています。背景にある12時少し前の時計が12時ちょうどになり、とうとう日付が変わる。ネウロは伏線だらけと言われる内の、これもひとつ。
 名簿の中にある本城刹那の名前や友人の会話からでたヒント。「ネウロ」は推理漫画にお決まりな読者に推理させるという狙いは全くない漫画ですので、そこからパスワードは想像できませんでした。
それと、小ギャグの一つと思われた、5巻でネウロが蓄財しているダイヤ。早坂兄弟にヘリを用意させる代金代わりに使うなんて。また弥子が警察で笛吹宛に置いていった手紙。その内容は後で明らかになりますが、彼らの行動の一つ一つに意味があり、のちに再利用する作者の細かな基盤つくりは見事としか言いようがありません。
 HAL編後半からのテンポのよさはハラハラしながら一気に読めてよかったです。これがブリーチならHAL編だけで4年は掛けたでしょう。

 あと、春川と刹那の回想で出てきた「本城博士の娘か」「悪意の塊のような病気」「人為的なもの」これらの台詞は伏線です。読み進めていき気がついたときは衝撃的でした。はじめは刹那とⅩは同じ病気だと思っていた私です。あるいは黒幕はⅩだろうと。まさか読者のミスリードを誘うのも作者さんの狙いだったとか?
 10巻での印象的な台詞はこれです。HALが繰り返しつぶやく「違う(ノット)消去(デリート)再試行(リトライ)」これは、刹那との事情を知ってしまってから再び読むと切なくなります。
 また「何度退けても向かってくる。人間とは比べようもなくタフで知能的。人間には通じる脅しも君には通用しない。決して諦めない執念」うまく的中させたネウロへの褒め言葉です。まさにネウロとはこんな奴。HALでさえ敬服してしまうほどですから。
 もう一つ、感心するのは作者さんの家具のデザインのセンスのよさです。魔界能力のデザインも独特で凝っているとは思いましたが、特にテーブルや椅子は商品化して欲しいほどの美しさ。そのかわり人物に関しては、弥子が6頭身だったり8頭身だったり、ネウロとの身長差がまちまちだったり、ありえない関節の曲がり具合だったり、おや?と思う点はございますが、それは作者さんの個性として受け取ります。
 最後に登場した葛西。なにやら意味深なことを言っていますが、これも読者を翻弄する作戦かも…?

魔人探偵脳噛ネウロ6~8巻 あらすじ&感想

kage

2012/09/18 (Tue)

 『噛み切り美容師』と呼ばれる殺人犯の捜査に行きたいという弥子。しかしネウロは謎の有無がはっきりしない事件には手を出さないと言う。その代わり弥子とあかねちゃんだけで犯人に接近してオトリ捜査をしろと言う。弥子は犯人と思われる人物に近づくが、簡単に捕らわれてしまう。だがすぐにネウロがアリバイトリックの解明をし弥子を救出。ネウロは弥子の働きぶりに「期待はずれだ、弥子よ。貴様の日付けはいつになったら変わるのだ」と暴言を吐いて去っていく。弥子はその言葉にショックを受ける。「私にネウロが必要とする力があるのだろうか」と。
 落ち込む弥子は刑務所のアヤに面会に行く。アヤは弥子に「近い将来、彼はあなたの力を真に必要とするはず」とアドバイス。

 元気を取り戻した弥子とネウロのもとへ「Ⅹ」からの犯行予告状が届く。
「Ⅹ」とは、誰にでも変身できる細胞を持つために、本当の自分の正体がわからなくなったという少年。自分の正体を探すために殺した他人の細胞を透明な箱に詰め、『赤い箱』を現場に残し逃げ去る狂気的な殺人者だ。異形のネウロの細胞を観察することで、自分の正体を知るヒントになるという理由でネウロの命を付け狙う。
 ネウロと弥子が、犯行予告現場である芸術家の屋敷に行くと、怪しげな家族がいた。そして、この家の主人が一年前に死んだ事件も謎が隠されているとして、ネウロは興味を持つ。
 その夜、屋敷で次なる死亡事故が起こる。ネウロが殺人トリックを暴いたその時、謎を喰う瞬間の隙を狙って「Ⅹ」が姿を現す。「Ⅹ」はショットガンでネウロを奇襲攻撃。いつもなら無傷のはずのネウロが重症なことに弥子は驚く。警察が突入するまで時間を稼ごうと、弥子は恐る恐る「Ⅹ」に話しかける。すると「Ⅹ」は芸術家家族の隠された愛情について語りだす。弥子は「Ⅹ」の意外な人間らしさを知る。
 場所を変えたネウロと「Ⅹ」の対決現場で、ネウロは「我が輩の体は人間に近づいている」と告白。失望する「Ⅹ」だが、ネウロの圧倒的強さの前にまるで歯が立たない。とりあえずネウロからのきついお仕置きを受け退散。
 
 数日後、二人は連続放火事件を調べていた。火災現場にいた3人の容疑者の中からネウロの推理で犯人を見破った。しかし、その犯人はなぜ放火したくなったか理由がわからないと言い出した。刑事篚口がこの犯罪者は『電子ドラッグ』中毒だと言う。パソコン画面を見た者から、深層意識にある犯罪願望を引き出す犯罪者制作プログラムが、何者かにより作られた可能性があるのだと。ネウロはパソコンの中に潜む謎に興味をそそられる。
 その頃、温泉で出会った春川教授が、自分の脳細胞をトレースして作った電人HALを完成させていた。電人HALは、パソコンの中で生きる人工知能でありながら、春川に無断で電子ドラッグをばら撒き犯罪者を蔓延させ、武器の密輸を行うなどの犯罪を実行していた。それに気づき制止しようとする春川だが、HAL がドラッグで操った学生たちによって殺されてしまう。
 そんな時、早坂兄弟が「以前、武器密輸した相手は名門大学の学生だった」と吾代に助言してきた。その大学こそ春川教授のいる大学。ネウロと弥子は春川に会いに行くが、誰も行方がわからないと言い、さらにドラッグに犯された学生に襲われる。余裕でかわしたネウロは学生たちを挑発してその場を去るが、世間では電子ドラッグ汚染が広がり始めていた。
ネウロは謎を食うためパソコン内部に侵入するが、妨害プログラムによって攻撃され、謎までたどり着けないでいた。



 この頃からネウロは魔力の消耗を危惧している節があります。弥子救出のために魔力を使うことすら惜しがるなんて。ましてや戦闘能力の無い弥子だけで危険な場所へ行かせるなんて。酷すぎやしませんか。けれど、ネウロもちゃんと準備しています。ネウロの側にいる魔界虫。その使用法は弥子誘拐編で明らかになりますが、ちゃんと弥子を監視しているのですね。
 
 今回も小ネタ&伏線があちこちに。
まずは大学講義中に春川が言った言葉。これがかなり重要なのですが、普通はさらりと読み流してしまうので気づくわけが無い。このヒントで気づいた弥子もすごい。温泉編での春川は電車の中や旅館で伏線らしき事を言っていました。もちろんこの時点では春川の計画は誰にも分からないのですから、あとで読み返して初めて意味が分かるという作者が用意した布石だったとは。
また、探偵事務所の向かいの、建築中のビル。このビルは完成後もたびたび使われています。デザインにも意味を持たせている。ただの背景でさえのちに利用するという手の懲りよう。『全体でひとつの作品』と作家さんが言われるポイントは、こういう連続した細かい設定なんだろうなと感心してしまう。
 そして、最後の自分像編でのⅩが化けているのが笹塚だと思わせる演出もさすがだと思いました。Ⅹが登場する直前のコマまで読者を笹塚に集中させておいて、ページをめくると「ええーっ」というテクニックは見事です。
 この作家さんはページをめくると犯人が豹変するってパターンをよく使うのだけど、その逆を狙ったのが、HAL編でネウロが大学の研究生たちと話をするとき。一人がごそごそしているのでページをめくると!…と思わせておいて何もない。これを二度繰り返し、次は別の人が何か言いかけてページをめくると!…あーやっぱりか!の3段落ちのフェイント攻撃にはやられました。
 それと、発見して嬉しかった小ネタは、「忠実うらぎりくん」がコンビニバイト中の吾代の持つジャンプと放火魔の持つ漫画にいたこと。こいつこんなに前から登場していたのね!

 弱体化して人間に近づくというネウロは、自分の正体がわからないというⅩに「向上の姿勢こそ人間である証拠」と答えてあげています。この作品のテーマは『人間の進化』。このあたりから人間の可能性について考えさせられる内容になっていきます。人間とは程遠いと思われた二人(ネウロとⅩ)が見せた人間らしさに触れ、弥子はどう進化していくのか。
 そこに注目して読むとよりいっそう世界観も広がります。
 いよいよ次は、ネウロファン絶賛のHAL編へと入ります。

(1~5巻は前頁にあります)

魔人探偵脳噛ネウロ1~5巻 あらすじ&感想

kage

2012/09/09 (Sun)

 父親を殺されてしまった女子高生桂木弥子。悲しみに暮れる弥子の前に、突然魔界からやってきた魔人脳噛ネウロが現れる。ネウロは魔界の「謎」を喰い尽した末、脳髄の空腹を満たすために地上に現れたのだという。ネウロの言う「謎を喰う」とは、犯罪者がトリックを暴かれた時点で敗北感を感じれば、その人間から「謎」が放出される、そのエネルギーを喰うことらしい。
 ネウロは謎を食う、つまり事件を解決するにあたり、魔人として目立つのを避けるため、弥子を探偵役に仕立て、自分は助手に徹し、数々の難事件を解決していく。
 強制的に探偵をやらされていた弥子だが、父親の事件を解決してくれた恩義や、多くの人と出会えることの興味から、探偵コンビを続けていく決意をする。
 父親の事件を捜査をしていた笹塚刑事。低いテンションと高い実力と言われる無表情の彼だが、事件現場に必ず現れる弥子を気遣い、その後も良き協力者となる。10年前に家族を何者かに殺された過去を持ち、この事件が彼の人生を大きく狂わす事になる。
 
 やがてネウロはまず手始めに怪しげな金融会社を乗っ取り「桂木弥子魔界探偵事務所」を設立する。金融会社の社員だった吾代を雑用係(奴隷)として雇う。
 探偵事務所設立後、第一号の依頼者は、世界的カリスマ歌手アヤ・エイジヤ。アヤは自分の周りで立て続けに起きた不審死に疑念を持ち、事務所を訪れたのだという。しかし、この不審死はアヤが起こした殺人事件だった。事件解決現場をテレビで放映されたことにより、弥子の知名度は全国的なものとなった。だが、これはより多くの謎が弥子の元に集まるためのネウロの計算。人間の知能をはるかに超えるネウロは謎解きだけでなく、先を読み用意周到に準備している。だが人間と同様の感情を持たないため、細かな心理分析は苦手としていた。心の内側を探る役目として、弥子を側に置いているとネウロは言う。
 次なる事件現場で二人は「Ⅹ(サイ)」と呼ばれる殺人鬼と遭遇する。「Ⅹ」は殺した人間を箱に詰め加工し、自分の細胞を自在に変異させ、他人に「成る」ことができる特殊能力を持つ人間。「Ⅹ」は弥子に強烈な脅威を与え、しばらく身を潜めるのだった。
 その後、弥子とネウロが行った温泉旅行で、春川教授という人物と出会う。のちにこの春川は世間を騒がす大事件に関わる重要人物となる。
 旅館での殺人事件を解決後、旅行から帰ると、留守番していた吾代がユキと名乗る男に襲われ倒れていた。後日ネウロと弥子がユキに呼び出された場所へ行くと、調査機関の社長、望月が現れ、知名度のある弥子を会社の広告塔として雇いたいという。怪しい雰囲気に断ろうとする弥子だが、ネウロは謎も無いのにあっさり引き受けると言う。
 望月と早坂兄弟(ユキ)が弥子たちを雇った本当の理由は、麻薬取引の罪を弥子たちに着せ、警察が踏み込んでいる間、自分たちは別の裏取引で武器を密輸しようと企んでいたのだ。しかし、ネウロに暴かれ失敗。早坂兄弟はネウロの驚異的な力を見せ付けられる。ネウロが謎も無いのに望月の依頼を引き受けた理由は、望月の調査会社を支配し、謎の多そうな事件をネウロの元へと運ばせるためだった。
 そして、実は早坂たちの取引の相手というのが、のちに起こる驚愕の大事件に関係していたと知るのは、しばらく後の話である。





「ネウロ」の感想や大まかなあらすじを書くのは他の方もされているので、全巻すべてのあらすじを書いてみることにしました。とは言っても独断で省いている箇所もあります。ネタバレ注意。

すでに5巻までで、伏線が張りめぐらされています。見つけた伏線はここ。
 あかねちゃん
 春川教授
 笹塚刑事
 ネウロの弱体化
 3巻のネウロの台詞

 あかねちゃんとは、事務所の壁に埋め込まれた死体の髪の毛。ネウロの魔力で髪の毛だけ生き返ったという、もう何でもアリな設定。このあかねちゃん、秘書として大活躍なんだけど、結局最終回まで、謎は解いてもらえず仕舞い。伏線未回収のまま放置?と思われたのだけど、これも作者の構想のうち。最終回でネウロが魔界から帰ってくる理由付けのためにあえて残してあるんですね。まだ解いてない謎がある、とはあかねちゃんのこと。
春川教授が温泉で言う
「近いうちに君たちは春川英輔の名前を顔を見るかもしれん。偉大な研究を成就させた男として」
と言う台詞。これはこの後起きる「電人HAL」のことを指しているかと思いきや、最終巻の救助システムのことだったんですね。(弥子はHALのことだと言っているけど)この時点で春川はHALの暴走計画は知りませんから。だとしたらなんて長ーーい伏線。
 笹塚刑事がヒストリア事件で見せた天才的な射撃の腕前。同僚の刑事が言います。あの腕前は警察学校で習うレベルじゃない。笹塚は家族が殺されてから一年間、姿を消していた。その間何をしていたかは誰も知らない、と。
はい、ここ伏線です。20巻で笹塚の正体が明らかになるまで、読者も弥子も疑いもしなかった笹塚の本性を、ここでほのめかしていたのですね。これもまた長い伏線。本当に天才的だと思う。この作者さん。怖ろしく練りこまれた構成力。
 そして、笹塚も周りの人たちも、笹塚の家族を殺したのは「Ⅹ」だと決め付けています。しかし「昔のⅩの手口は今より荒々しいものだった」という台詞があります。これもまたさり気なく伏線が張ってあります。読者も思い込んでいたⅩが犯人説をひっくり返すひと言だったのに、細かすぎて気づかない。(というか、私だけか? わかりやすい伏線に気がついてないのは。) 
 後半になって伏線回収されて初めて気づく、「ここはそういう意味だったのか」「この台詞はここで活かされるのか」と判明したときの驚き。ネウロファンが絶賛するのは、そういう何年もかけたロングパスの伏線と完成度だと思うんだよね。
 そして、ネウロの弱体化も早い段階で明らかにされています。1巻で弾丸をまばたきで受け止めたり、核弾頭でも殺せないと言ったり、ネウロは不死身だと読者に思わせておきながら、実は、温泉で弥子を守るため弾丸を指で弾いたときの出血がすぐに治らなかったり、早坂が撃ってきたマシンガンの弾が、数日後に体から出てきて血だらけになったり、ネウロが不死身ではないことを暗示しています。人間界では加速的に弱体化することは7巻でネウロ自身がⅩに告げることで読者も知るのですが、こんなに早い段階で主人公の弱みを言っちゃっていいの?最強の敵に、ネウロは勝てるの?という不安要素になるのですね。読者をはらはらさせる持って行き方がうまい。
 それから、3巻でネウロの言った
「資質と欲望が人間をどこまでも進化させる。その進化が魔界には無い多種多様な謎を生むのだ。いずれ貴様はより多くの人間を理解するよう進化するだろう。たとえそれが貴様が理解できないという、あのⅩでもだ」
という台詞。Ⅹへの恐怖で探偵を続けることに怖気づいた弥子に言うのですが、このときのこの言葉が、最終戦で現実になり、弥子も最終巻で言葉の意味を深く知ることとなるのです。

 ネウロの虐待や言葉攻めもギャグとして単純に笑えるし、弥子の成長やネウロに芽生えた人間への興味が、少しずつ描かれていくのも、好感をもって見ることができます。
 ネウロのドSも弥子と吾代限定らしく、よそ様には好青年風に振舞っている。弥子へのドSは仲間意識の表われ……という意味ですかね。いや単に所有物として遊んでいるだけでしょう。でも悪意は感じられない。「好きだからいじめたくなる」的心理かもしれない(違うな)。このあたりから、少しずつ二人の距離が縮まった感じもある。
 まだ、5巻までなのに、長々と書いてしまった。つぎへ続く。