2009 02 « 1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.31. »  2009 04

今週のbleach

kage

2009/03/30 (Mon)

ブリーチがとんでもないことになってます! 一護が!ホロウ化なんてもんじゃない!アランカル化しちゃってます!

ウルキオラは他のアランカルと違って人間に近いな~とは思っていましたが。
見た目も色白細身で背も低く、黒髪おかっぱ、常に冷静無表情、そして人間(織姫)の心を察することができる。少なくとも、今のいちごより、よっぽど人間です。
それに比べて、先々週からのイチゴは言葉も理解できず闘争本能だけ、台詞も無く心の中さえも描かれていない。そんなイチゴを冷静に解析するウル。ここだけ見たらどっちが主人公だか分かんないね。
そもそも、イチゴがウェコムンドにやってきたのは、織姫を救出するためじゃなかったですかい?ならば織姫を連れてさっさと逃げればよかったのに。今のイチゴは織姫そっちのけで自分の為に闘っているように思えてなりません。あげくの果て人間とは思えない姿になってしまいました。織姫ちゃんはそれで嬉しいのでしょうか。「どんな姿になっても黒崎くんは黒崎くんだから」なんて思っているようには見えませんが。怯えているようですが。

だいたい、織姫ちゃんとウルの関係はどうなってるの?…いや別に関係も何もないんだけど。ウルファンなら、もしかして二人は…?と想像しちゃいますって。
例えば、ウルのピンチに織姫が盾舜六花で助けに行くとか、戦いに巻き込まれそうになった織姫をウルが身を挺してかばうとか。最終的にいちごがウルを倒したときに、織姫がウルに駆け寄り抱き起こして「お…織姫…。お前が無事でよかった…うっ…がくっ」そんなの期待していたのに!
織姫ちゃんも、自分のことをただの仲間としか見ていないがきんちょ苺より、大人の魅力のウルキオラの方に鞍替えしたらどうですか。
「俺が護る」の台詞はルキア救出編でも似たようなこと言っていたからね。仲間としてなのか、恋愛感情なのか、分かりにくいんだ、あいつは。がきんちょだから。
織姫は苺のバケモノ化に呆然としているだけで、側で心配してくれている石田くんのこともどうでもいいみたいです。腕直してあげてよ!苺しか目に入らないってことですか。

そんなことより、ウルちゃん、あっさりやられたりしないよね?容赦ない一護に頭を踏み潰されそうになり、潔く「やれ」と言ってますけど。まさか~!これでおしまいじゃないよね?
もし、体を潰されても、脅威の再生能力でにょきにょき~とふっか~つ!
っていつものパターンですよね。きっと。
ブリーチは「いつまで闘っとんねん」と言いたくなるほど、だらだら長―――く引きずるのがお決まりなので、まだまだ、ウル対一護は続くと思います。
っつーか。まだ終わらないで!この闘い!主人公が負けるのはあり得ないから、やはり最後はウルがやられるのでしょうけど、それは嫌だな~。ウルちゃん負けないで~。あんな化け物一護に~!
人気のあったグリムジョーも倒されたので、ウルもそうなるのでしょうけど、ここはひとつ引き分けってことで、どうでしょう?
ウルキオラも殺生丸さまのように、人間と関わることで慈悲の心が芽生えたりしないのでしょうかね~。それっぽい展開を匂わせてませんか。ウルにとって織姫は初めて出会った特別な存在だと思うし。いっそ、ウルキオラが死神になって仲間になるってのは?
ウルキオラは他の敵と違うってとこ見せてほしいものです。

あーそうそう。今ふと思った。殺生丸さまと言えば…。ウルがあっさり自分の弱点を言ってるのですよ。すると理性を失った(ように見える)一護も当然、脳を潰せばいいと思うはず。そこがあいつの浅はかなトコ。
頭の中に脳があるとは限らない。胸に心臓があるとは限らない。
犬夜叉の奈落の心臓が別の場所にあるのと同じですな。きっとそうよ。
そう簡単にやられますかいな!ウルキオラさまが!

ジャンプ発売日はコンビニの立ち読み客が多い!


小説 『錯覚と微笑みと泡沫人(うたかたびと)』

kage

2009/03/26 (Thu)

競作参加作品  テーマ『春』 お題『ひなまつり』

 恋と錯覚は似ている。いい人よ、素敵な人よ、と聞かされれば、自分もその人に恋しているのだと脳に刷り込まれる。やがて、自分のものにならないのなら死んだほうがまし、それが恋だと思い込む。
 自殺と他殺は似ている。死に至るいきさつがどうであろうと、残された者の悲しみは同じなのだから。違うのは罪に問われるかどうかだ。殺人者は罰せられるのに、自殺をしたものは誰が裁くというのか。
 神様はどちらも許さない。死を選んだ姉も。死に追い詰めた男も。
 わたしは許すことが出来ない。

 日記を見つけたのは、姉の四十九日の法要のために実家に帰ったときだった。
 法要が終わると、親戚の人たちがひとりふたりと帰っていき、家には両親とわたしが残された。
 姉が死んだ日から、光を失ったように寒く静かなこの家。それなのにわたしは明るく照らす太陽にはなれない。
 太陽は姉だ。わたしは自分から光を発することのない月。
 親戚の人たちにお茶を淹れたり姉の思い出話をしたりしていた母は、気丈に振舞っているように見えたが、和室でひとりになると、遺影に向かってうつむき背中を震わせていた。わたしはそれを障子に隠れてただ眺めるしかできない。
 「元気をだして」という言葉を、娘を失った母親に掛けるには、無意味で残酷なことだと分かっていた。適切な言葉を探し出せないわたしは、足音を立てないように和室の横を通り過ぎ、姉の部屋がある二階へ上がった。

 姉の葬式以来久しぶりに入ったこの部屋。なにもかも生前のままにしてあると母が言っていた。
 化粧品の少ないドレッサー。ベージュに揃えたベッドカバーとカーテン。恋愛小説が並べられた本棚。小学生の頃から使っている机。持ち主がいなくなったそれらも何処となく寂しげに見える。
 小学生の頃の姉はいつもこの机でこっそり日記を書いていた。
 『日記は誰にも見せちゃいけないのよ』

 机の引き出しを上から一段ずつ開けていく。整理された二段目の引き出しの中にはたくさんのキャンパスノート。小学生のころから書き溜めた日記なのだろう。
 ふと一番下に隠すようにしまってある厚い表紙に目が留まった。他のノートとは違い、ひと目で日記帳とわかる白い花柄のそれを、躊躇なく開く。
 生きていたのなら決して他人が開けて見ることのない日記は、死んでしまえば想いの詰まった遺書になる。
 日記には、どのページをめくっても恋人のことばかり書かれていた。姉には死の半年前から付き合い始めた恋人がいて、その人に夢中になっているらしい文面が、恥ずかしげもなく書かれている。
 姉の毎日は恋人一色だった。会っていた日はデートの内容が、会っていない日は会いたい気持ちが。恋人のことで埋めつくされた全てのページからは幸せしか読み取れない。
 姉に恋人がいたこと、姉が恋愛で熱くなるタイプだったことを知らなかったわたしは、意外な姉の一面に些か驚いた。

 姉の最後の数ヶ月は恋人のためにあった。
 それなのに、なぜ、姉は飛び降り自殺なんかしたのだろう。

 幸せそうな姉の毎日を読み進めるうちに、そんな疑問がのしかかる。
 姉の日記を最後のページまで読み終えたとき、わたしは体の内側から沸き起こるような衝撃に震えた。
 姉の死の真実がそこにあった。幸せだった姉が死んだ本当の理由が。
 わたしは全身の震えをひとつの決意に変化させて、姉の眠るお寺へと向かった。

 姉はこのお墓の中に、顔も知らないご先祖様と一緒にいる。
 ――こんな四角い石の中にいて寂しくない? 
 墓地全体が見渡せるほどの高台に建てられたお墓の近くには、低い紅梅の木が一本植えられていた。この寒さの中もう花が咲いている。細い枝につけた、たくさんの鮮やかな濃い紅色は、遠くからでもよく目立つ。
 ――この花は姉さんみたいね。
 時折吹く緩やかな風は木々を揺らし、春の香りも連れてくる。
 ――いい風よ。姉さん。

 姉の心が聞ける気がした。
 姉がどんな思いで最後のページを書いたのか。どんなに辛かったか。
 ここにくれば分かる気がした。
 わたしが日記を見つけたのは、姉の無念をはらす宿命だから。姉がそうさせたのだ。
 何も言わない無機質な石になってしまった姉に誓う。
 姉さん、悔しかったでしょう。悲しかったでしょう。わたしが姉さんの代わりにあの男に痛みを与えてあげるから。

 その時、かさこそと落ち葉を踏む足音が近づく。振り返る先にあるのは、ゆっくりこちらに向かって歩く見覚えのある男と、姉の好きだったフリージア。眉毛を下げて微笑むこの男は、日記に挟まれていた写真の中にもいた。はにかんだ表情の姉とツーショットで。
 この人が恭一さんか。
 写真と同じ微笑で私を見つめる恭一さんを、突き刺す視線で睨み返す。
 姉はこの男に殺されたのだ。

 「今日だったね。涼子の四十九日」
 恭一さんは持ってきたフリージアを花立てに差しながら言った。確かこの人に会うのは二度目。お葬式で他の友人達と並んで焼香していたはずだ。特に目立たなかったし自分からも名乗らなかったので、この人が姉さんの恋人だなんて、わたしも両親も気付かなかった。
 時々お墓に新しい花が供えてあったのは、恭一さんだったのか。
 恭一さんはお墓の正面にしゃがんでじっと石碑を見上げている。真面目な顔で、同じ姿勢で。
 もう何分経っただろう。今更姉さんと何を話すことがあるの。自分のせいで姉さんが死んだというのに。

 「わたし、妹です。涼子姉さんの」
 「うん。知ってるよ。アキちゃんだろ? 涼子がいつもきみのこと話していたからね。想像していたとおりで驚いた」
 ずっとしゃがみ込んでいた恭一さんはゆっくり立ち上がると、わたしに向かい合う。
 いったいどんな想像していたと言うのよ。なにがおかしいの。この人はさっきからずっと微笑んでわたしを見ている。そういえば姉の日記にも恭一さんはいつも微笑んでくれると書いてあった。
 恭一さんの長い前髪が風にゆれた。
 「きみは涼子に似ているね」
 彼はまだ視線を外さない。
 「そうですか。ぜんぜん似てないと思いますけど」
 わざと冷たい言い方をするわたしに構わず、穏やかな口調で恭一さんは続ける。
 「似てるって言ってたよ、涼子も。ぼくもそう思った。ねえ、涼子」
 そう言って、また石碑と向き合った。わたしと恭一さんの間に風が抜ける。側に姉さんがいる気がした。

 一週間後、わたしは恭一さんが店長として勤めるコンビニでバイトを始めた。姉の日記に彼がどこのお店で働いているのか書いてあったので、突然押しかけてわたしを雇って欲しいと言った。すると恭一さんは一瞬驚きはしたが、すぐにあの笑顔に戻って、即採用してくれた。
 わたしがわざわざ彼のお店で働く理由は、少しでもこの人に近づきたかったからだ。姉を殺した証拠を掴むために。

 警察は自殺だと言った。だがわたしは信じられなかった。真面目で道義的な姉さんが自殺なんてする訳がない。綺麗で優しくて誰からも愛されて、そんな姉さんが自分から命を絶つなんてありえない。
 姉は恭一さんに殺されたのだ。日記の最後のページにそう書いてあるのだから間違いない。警察はこの日記の存在を知らない。日記の中の真実はわたしだけが知っている。わたしの手で姉さんの恨みを晴らしてあげるからね。姉を殺しておきながら、自殺に見せかけてのうのうと暮らしているあの男の、悪魔の顔を隠した仮面を剥がしてやる。

 「もう、慣れた?」
 コンビニの入り口に置いてあるごみ箱に新しいごみ袋をかぶせていると、恭一さんが声をかけてきた。
 わたしがそんな思いで働いているとは知らない恭一さんは、何かとわたしを気にかけてくれる。
 「はい、少しは慣れました。バイト仲間の人たちも親切に教えてくれるので」
 「そう。分からないことがあったら、なんでも聞いてね」
 わたしの目の前の恭一さんは、いつでも誰にでも優しく穏やかだ。仕事中でも怒ったのを見たことがないし、常に微笑みを忘れない。従業員やお客さんにも信頼があるし、恭一さんのことを悪く言う人はいない。
 今日も恭一さんは遅番か。店長の彼はお昼から深夜までの勤務の日が多い。ユニフォームに着替えると、恭一さんはシフト表をチェックした。
 いつ悪魔の顔を現すのだろう。


   ○月×日

  あなたしかいないのに。なぜ、別の人を選んだの。
  あなたを失いたくないのに。なぜ、裏切ったの。
  この裏切りは私が許さない。
  あなたの作り物の優しさが私を苦しめる。
  今はもう、あなたの優しさも、愛した事実も、悲しいだけ。
  裏切りに苦しみ生きるのなら、いっそあなたに殺されたい。
  明日、あの場所で、すべてが終わる。
  あなたの手で、私は消える。
  それが、あなたの望みなら。


 日記はこれで終わっている。
 恭一さんは、姉さんに浮気がばれて、邪魔になった姉さんを高層マンションの屋上に呼び出して突き落とした。姉さんは恭一さんに殺されるのを予期して、この日記に辛い心情を残した。
 つまりそういうことだ。
 姉さんはどんな思いで死んでいったのか。
 バイト先でのわたしの知る恭一さんは、殺人者の目をしていない。わたしが涼子姉さんの妹だと知っているのに、なぜ、普通に接することができるのか。
 恭一さんがわからない。

 今日は姉さんの月命日。
 ここに来れば姉さんの声が聞ける気がした。
 風の強いこの場所にお墓があるなんて、寒がりな姉さんが可哀そう。
 灰色の空を見上げながら長い石段を登ると、冷たい風が頬に当たって痛い。手袋をした手で頬を覆って暖めた。午後から雪になると言った母の天気予報は当たるかも。
 姉が死んで二ヶ月が過ぎようとしている。
 姉の死を受け入れられない母は、お葬式以来ここには来ていない。電話で一緒に行こうと誘ったけれど、お墓を見ると辛いからと言った。

 姉さんのお墓の近くまで行くと、お墓の前でたたずむ背中が見えた。あれは恭一さんがいつも着ている黒いコート。
 わたしはとっさに銀杏の木の陰に隠れた。なぜだか反射的に。
 密かに様子を窺うつもりで覗き見ていると、うつむいてただ立ち尽くす恭一さんの頬をつたって光るしずくが地面に落ちた。
 いつも笑顔のあの人が泣いている。肩を震わせて。
 その涙はとても透き通っていて、それは恭一さんの心の中なのだろうかと錯覚してしまうほどで、わたしが見てはいけなかったようにも思えて、それほど深い思いの詰まった涙にも見えて……。

 その時、雪が風に踊らされるように舞い降りてきた。
 細かい雪が恭一さんの震える肩に落ちては溶ける。
 姉さんなのね。この雪を降らせたのは。風に舞う雪は優しくあの人を慰める。
 わたしは次第に白くなり始めた石段をそっと降りた。


a0001_000556.jpg


 恭一さんは今でも姉さんを忘れていない。
 それほどまでに愛していたのなら、なぜ。
 わたしはアパートに帰ると、姉さんの日記を読み返した。


   ○月○日
   
  今日のデートは楽しかったな。楽しくないデートなんてあるわけないけれど。
  さっきあなたと会ったばかりなのに、不思議ね。今すぐ会いたい。
  あなたのおやすみの声で私は満たされる。
  今日の最後に聞いた声が、あなたのおやすみでよかった。
  夢の中でもきっと私はあなたを探しているでしょうね。


 愛する人に殺されると思っていなかった頃の姉さん。
 姉さんは恋していた。少女のような恋を。
 そんな姉さんを裏切った恭一さんを許さない。
 二人は愛し合っていたんじゃなかったの? それなのに、なぜ。
 二人に何があったというの。

 殺した証拠を掴むなんて簡単にはできない。警察でも分かり得なかったことを、わたしがどうしたらいいのかさえも分からない。恭一さんが殺したと公表したとして、そんな事を姉さんは望んでいるのだろうか……。
 新商品の品出しをする手を止めて、そんなことをぼんやり考ていた。
 「どうした? 具合でも悪い?」
 恭一さんの声ではっとする。わたしが並べたお菓子の箱が全部裏向きになっていた。
 「す、すいません。すぐ直します」
 慌てて箱を表に向ける。
 「あははっ。いいよ焦らなくて。それよりアキちゃんバイト零時までだろう? 送っていくよ」

 バイトを上がってタイムカードを押しお店を出ると、恭一さんが駐車場に停めた車の横で待っていた。わたしは彼の微笑みに吸い寄せられる。
 「女の子は深夜に入らなくてもいいんだよ。心配だからね」
 「いいえ、いいんです。わたしを襲う男なんていませんよ。それに……」
 午前中勤務だと、深夜勤務の恭一さんに会えないですから。
 心の中で付け足した。
 「明るいね」
 「えっ?」
 「月が明るいね。今日は満月かぁ」
 恭一さんが月の話題をしていると言うのに、わたしの位置からは月を見上げる恭一さんの咽仏がよく見えて、声が高くて穏やかな口調だけど、この人は男なんだ、と当たり前のことを考えていた。
 「月を見ながら歩いて帰ろうか。ぼくとじゃ嫌かい」
 「そんなことありません」
 恭一さんに聞きたいことはたくさんある。でもなかなか二人きりになる機会がなかったし、もしチャンスがあったとしても、何をどう切り出していいのかわからなかった。
 恭一さんは開けかけた車のドアをロックして、わたしの先を歩き出した。
 「こっちだよね、きみのアパート」
 振り返りながらそう言う恭一さんに、「この道をまっすぐです」小走りで駆け寄る。

 月明かりの下、静まりかえった深夜の道路を恭一さんと並んで歩く。
 この人は何も話さない。
 自分から送っていくと言ったのは、わたしに何か言いたいことがあったのではなく、ただ本当に女の子の一人歩きをさせる訳にいかないという、店長としての好意にすぎないのか。
 アパートまで二十分の距離。このまま黙っていたらすぐ着いてしまう。わたしは勇気をだして口を開いた。
 「姉は、どうして死んでしまったのでしょう」
 再び重い沈黙。恭一さんにいつもの微笑はない。まっすぐ前方の道だけをみて白い息を吐いている彼に、わたしは鋭い視線を投げかける。
 静かな沈黙が続き、わたしは恭一さんの返答を諦めて小さなため息をもらすと、それと同時に彼がぽつりと言った。
 「ぼくが殺したのかもしれないね」
 落ち着いた表情で、淡々とした口調で。
 認めたということ? 殺したことを? 浮気を? すべてを?
 どうしてそんな風に平気な顔で言えるの。
 わたしが聞きたかったのは、この言葉だったはずなのに、なぜだか動揺している。認めて欲しくなかったのかもしれない。心の奥で恭一さんを信じたいもうひとりのわたしがいる。

 「どこ?」
 「え」
 「きみのアパート」
 「あ、あぁ、すぐそこの、あのアパートです」
 恭一さんはわたしが指差した方向を見て確認すると、わたしの正面を向いて立ち止まった。
 距離が近い。こんなに接近したのは初めて。意外とある身長差を発見し心臓が急に早く打つ。思わず息を止めた。
 恭一さんは手のひらをわたしの頭の上に置いた。緊張してこわばるわたしに、前かがみになり顔を近づけると、「おやすみ」と言った。
 これね。これが、姉さんが好きだった「おやすみ」
 「夜は寒いから、早く中に入ったほうがいいよ」
 いつもの微笑に戻った恭一さんは、コンビニの方向へと歩き出す。

 わたしはアパートの玄関のドアにもたれ掛かりながら月を見上げる。
 想像もつかないほどの大昔から、人々はその美しさを誉め、神秘的な力を信じてきた。空気も水もない岩だらけのあの星を。
 月には人の心を見透かす不思議な力がある。
 岩石でできた大きな丸い塊は、三十八万キロ離れた小さなわたしを優しく照らす。

 カーテンの隙間から漏れる月明かりが本棚まで伸びて、白い背表紙にぼんやりと光を当てる。
 恭一さんのことを、お墓の前で会うよりもっと前から知っていた。恭一さんが姉さんと愛し合う前から、わたしは彼の側にいた。
 どんなに記憶を戻してみても、それは妄想以外の何者でもない。
 迷子の気持ちは行き場がなく漂う。
 恭一さんはもうコンビニに着いただろうか……。
 誰かのことを考えるだけで息苦しくなるなんて、まるで幼い恋ではないか。自分の心に問う。なぜ、こんなに気になるのかを。恭一さんのせいで姉さんが死んだのだから、頭から離れないのは否めないのだけれど、それにしては印象が強すぎる。
 ――まさか、惹かれてる?
 「そんなんじゃない」
 わたしは首を振り、声に出して否定した。

 「コンビニでバレンタインチョコを買う人なんているのね」
 店内にお客さんがいないのを確認してから伊原さんが言った。
 彼女は三つ年下だけどわたしにタメ口だ。ここでは先輩なのだから当然かもしれないが。
 「二月十四日にコンビニで買う人は、おそらく義理チョコを買い忘れていたとか、あげるのをやめようとしたけれど、気が変わって慌てて買いにきたとか、そんなところじゃない?」
 などと、チョコを持ってレジに並ぶお客さんの顔を思い出し、その人の背景を勝手に想像した。
 そう言うわたしは、実はもう買ってある。もちろんコンビニではなく、有名なチョコレート専門店に昨日買いに行った。
 渡そうかやめようかで一週間悩み、お店の中ではどのチョコにしようかで一時間迷った。
 店員をさんざん待たせたあげく選んだ品は、小さい箱に四個しか入っていないのに、意外と高くて八百円。安っぽくなく、なおかつ押し付けのない高級感のあるもの、どうせ義理なのだ。それくらいがちょうどいい。
 あげる相手は恭一さんだ。
 夜七時のバイト終わりに恭一さんが出勤するのを店の外で待つ。黒い包装紙に金色のリボンのかかった箱を背中に隠して。
 今日に限って来るのが遅い。まさか今日は休みだったりして。緊張と不安がやってくる。
 バレンタインデーだもの。恭一さんも忙しいわよね。
 そう思った時、左折して駐車場に入って来た白い車が、いつもの場所に停まった。恭一さんのセダン。
 わたしは車から降りた彼が通用口に近づいてくるのをじっと待つ。
 すると、わたしに気付いた恭一さんがはっとして立ち止まった。
 「どうしたの。帰らないの」
 「はいこれ。チョコレート」
 ぶっきらぼうに差し出す。
 「えっ、ぼくに?」
 一瞬驚いた顔を見せたが、右手を出して受け取る。
 「毒は入ってませんから」
 「ははっ、おかしなことを言うね。ありがとう。嬉しいよ」
 その言葉を聞いて耳がかっと熱くなった。わたしのチョコを素直に喜んでくれる。
 「義理ですからね。勘違いしないで」
 そう言ってくるりと背中を向けると、一目散に走って逃げた。もうやだ、中学生じゃあるまいし。
 「ありがとう。気をつけて帰るんだよ」
 恭一さんの声を背中で聞く。赤い顔を見られたくなかった。あの人はいつもわたしの顔をじろじろ見るんだもの。たかがチョコを渡したくらいで、わたしったら何を緊張しているの。
 そのまま一気にアパートまでダッシュした。

 アパートのドアを勢いよく開けて玄関にへたり込む。
 姉さんの愛した恭一さんの優しい目。姉さんの好きだった恭一さんの優しい声。
 恭一さんの声が耳から消えない。
 姉さんの日記に書かれたのと同じ、温かく穏やかな恭一さん。
 でもその眼差しはわたしを見ていない。わたしの目の奥に姉さんを見ている。そう思う。
姉さんに向けたのと同じ愛情を含んだ眼差しを求めてはいけない。それは姉さんに対する気兼ねではなく、不実な恋人に苦しんだ姉のため、わたしに与えられた使命なのだ。
 けれども、そう思い続けた信念は、恭一さんを目の前にすると簡単に崩れてしまう。
 わたしはいったいどうしたいの。わたしの本当はどこにあるの。
 立ち上がって本棚の前までいくと、日記帳を取り出しページを開いた。
 何度も読んだはずの姉さんの日記を一日目から読み返す。この半年後には最愛の人に裏切られ殺される日がくるとは思っていなかっただろうに。


   △月○日

  今日は最高の日。私の二十四回目の誕生日に、指輪とプロポーズのプレゼント。
  永遠の愛を誓うとあなたが言った。私もあなたと生きていく、一生あなたと共に。
  幸せすぎて今日は眠れそうもない。
  恭一さんのすべてを愛している。

 
 恭一さんは姉を愛していなかったのだろうか。それとも愛を誓っていながらも簡単に心変わりしてしまったのだろうか。姉さんのことは殺したいほど愛していたということかもしれない。自分への愛を永遠のものにするために。それでは身勝手すぎる。
 恭一さんは浮気相手と姉さんのどちらを愛していたのだろう。身勝手な愛は愛ではない。たぶん誰も愛していない。ましてやわたしなど。

 誰かのための嫌悪は本心ではない。努力して嫌いになれるものでもない。人から引き継いだ憎しみはその人のものであり、自分の憎しみではない。
 憎しみで脳を支配していたのは錯覚で、相手のことを嫌いになろうと欠点を探していくうちに、いいところしか見つからず、頭の中から消えない存在は、やがて恋に変わる。
 愛されていないとか、誰かが愛した人だからとか、そんなことは構わない。わたしが愛していれば、それがわたしの本当だ。
 
 姉とは昔から好みが似ていた。イチゴショートよりチョコレートケーキ。洋服はピンクより水色。キティちゃんよりスヌーピー。
 そしていつも自分も気に入っているほうをわたしに譲ってくれる。
 雛人形だってそうだ。
 姉は五段飾りの豪華な雛人形を買ってもらっていた。毎年おひな祭りには、実家の床の間に早々と飾り付けをしていた。姉と母の二人が半日がかりで楽しそうに。わたしはそれを羨ましく見ていた。
 わたしにはお雛様とお内裏様の二体がガラスケースに入った親王飾り。床の間の五段飾りの隣の畳の上に毎年置かれていた。スペースがないので、大きなお飾りが二つも買えないのよ、と母が言ったのを覚えている。
 小さい頃は姉の雛人形の前に座って、御所車や三人官女や五人囃子を一日中眺めていた。

 そんなある年のおひな祭りの日。姉がわたしに言った。「ねえ、アキちゃん。お雛様取り替えてあげる。お母さんとお父さんには内緒よ。五段飾りがアキちゃん。ガラスケースのお雛様が私の」
 小学生のわたしは素直に喜んだ。見た目には何も変わらないけど、憧れの大きな雛人形がわたしの物になる。そう思うと嬉しかった。
 しかし、中学生の頃になると、後ろめたさに胸が痛んだ。おひな祭りが近づきあのお人形を見るたびに、姉さんの優しさに気が咎めた。
 姉さんはわたしの欲しがるものは自分が我慢してでも譲ってくれる。もし将来わたしと姉が同じ人を好きになったとしたら、そのときも姉さんはその人を譲ってくれるだろうか。そんな風に考えたこともあった。

 ごめんね。姉さん。わたし、恭一さんを独占したい。
 もう、姉さんに遠慮しない。譲ってくれるでしょう、いつものように。平気よね。わたしが恭一さんを好きになっても。
 この日記に書かれていることは、誰にも秘密。
 わたしは姉さんの日記帳を鍵付きのボックスに入れると、ベッドの下にしまい込んだ。

 「明日の夜、開けといてください」
 仕事中、急にわたしが声を掛けたものだから、恭一さんは持っていたダンボール箱を床に置いてどうしたの、と驚いた表情を見せた。
 「ホワイトデーでしょ、明日。チョコのお返しにわたしを食事に誘ってください。ううん、やっぱり、飲みにいきましょう」
 「へえー、お酒だなんて。アキちゃん、飲めるの?」
 「子供扱いしないでください」
 「そうだね、失礼。アキちゃんは素敵な大人の女性だよ」
 アキちゃん、か……。呼び捨てじゃないのね。姉さんを呼ぶみたいに。
 「わかった。明日の夜だね。開けとくよ」

 どうしよう、明日何着て行こう。やっぱり、この前買った花柄のスカート。
 アパートに戻るとすぐにクローゼットハンガーを開いた。値札のついたままのスカートを腰に当てて鏡の前に立つ。
 姉さんもよく花柄のスカート履いていたっけ。このスカートと水色のジャケットを合わせよう。姉さんに負けないように、おしゃれして行こう。

 大通りにあるレストランバー。お店選びは恭一さんに任せた。前を通ったことはあったけど、入ったことはない。誰かが誘ってくれないと行ける雰囲気でもないし、女の子同志でって訳にもいかない。周りはカップルばかり。なんだか恥ずかしい。
 「アキちゃん、最近楽しそうだね」
 「はい。バイトがある日はなんだか楽しくって」
 「そう、仕事が楽しいのはいいことだよ」
 ウエイターがマルガリータを恭一さんの前に、カンパリオレンジをわたしの前に置いた。
 楽しいのは誰かさんに会えるから、と言いそうになった口を黙らせるいいタイミングで現れてくれた。
 二人が向かい合うテーブルに赤いキャンドルが揺れる。薄暗い店内のムードについ錯覚してしまいそうだった。わたしたちは恋人同士じゃない。
 「……このお店、姉さんと来たんですね」
 返事がなかった。都合が悪くなるといつも黙りこむ。それがあなたの癖。
 恭一さんは火を点けたばかりの煙草を灰皿に押し付けた。
 姉さんとどんな話をしたのだろう。目を見交わして愛を語り合ったのだろうか。プロポーズしたのもこのお店だったのかもしれない。
 恭一さんは遠い目でキャンドルの炎を見ながら、二本目の煙草を箱から出した。煙草を軽くテーブルに叩きつけてから、口の右端にくわえ火を点けると、中指と薬指に挟んで煙草を吸う。それもあなたの癖。
 姉さんは気付いていたかしら。彼のこの癖。
 好きな人の癖を見つけるだけで嬉しくなる女なのよ、このわたしは。
 恭一さんのことは何でも知りたい。癖も、好みも、本心も。
 「恭一さんってずるい人ですね」
 「どうして」
 「そのどうしてがずるいって言ってるの」
 何を言うの、わたし。やけ酒になってる。
 「アキちゃん、酔ってるね。大丈夫かい」
 わたしに優しい言葉をかけながら、心は此処にないことを知っている。
 恭一さんがわたしから視線をそらすたびに、悲しくなるの。あなたのその優しさが姉さんを苦しめたのよ。
 言葉にならない言葉たちが、わたしの中でくすぶっている。
 今ここで恭一さんを問い詰めてなじったとしても、自分の気持ちを正直に吐き出したとしても、どちらも楽にはなれない。
 「出ようか。送っていくよ」


a0800_000471.jpg




 お店を出ると、恭一さんがわたしを気に掛けながら寄り添ってくれる。冷たい夜の風が気持ちいい。
 酔った振りをすれば、恭一さんの腕にもたれ掛かることもできるのに。
 人影のない歩道には街灯の灯りが点々と灯る。恭一さんと無言のまま歩いて行くと、アパートの近くの児童公園まで来た。アパートに着けばもう今日は会えない。
 わたしは恭一さんの前に立ち塞がった。自分の口はまったく予想のつかないことを言う。
 「キスして」

 自分の大胆さには呆れる。張りつめた体と神経でおそるおそる顔を上げると、まっすぐわたしの目を見つめる瞳。その奥にわたしはいない。
 わたしを見ているのに遠く感じるその目は、わたしと姉さんを重ねている目だ。わたしには分かる。
 恭一さんは少しずつ近づくと、大きな手のひらをわたしの耳の後ろに這わせて髪の中に指を入れた。
 目を閉じて待つと、恭一さんは前髪を垂らしたわたしのおでこにそっと唇を当てた。
 そこじゃないのに。わたしの欲しいキスはくれないのね。
 恭一さんは指でわたしの髪の毛をとかすようにしながらゆっくり離れた。目を閉じていてのも彼の表情は見える。悲しい目を見たくないので、しばらくまぶたを閉じていた。

 「行こうか」
 わたしが小さく頷くと、恭一さんはアパートの方向に歩き出した。夜の児童公園は死んだように静まり返っている。
 「殺したんでしょ」
 突然のわたしの言葉に恭一さんが振り返る。
 「姉のこと愛していたんでしょ。それなのになぜ姉を悲しませるようなことしたの。なぜ、浮気なんか……」
 恭一さんは切なそうに私を見る。そんな目で見ないで。
 「わたしは姉さんと違うの! わたしを見て欲しいの!」
 勢いに任せて飛び出す言葉に、恭一さんは答えない。答える気にもならないということか。
 「わたし、こんなこと言いたかったんじゃない。わたしは、恭一さんのこと……」
 「わかったから。もう話さなくていいよ」
 わかってないくせに。あなたは何もわかってない。優しくしないで、痛いから。
 「だいぶ酔っているようだね。今日はもう休んだほうがいい」
 わたしの肩を抱き寄せて恭一さんは歩き出した。

 わたしは恭一さんに優しくして欲しいんじゃない。姉と同じように愛してくれないのなら、わたしも殺して。あなたの中途半端な優しさがわたしを傷つける。
 無言で歩き続けるアパートまでの道のりは、嫉妬と苛立ちと恥ずかしさで歩くのもやっとだったけれど、それでも肩に伝わる手の暖かさがわたしを少し落ち着かせてくれた。
 アパートの前に着くと、わたしの口から小さくこぼれ出た。「ごめんなさい」
 小さな声すぎて恭一さんに聞こえてないかもしれない。
 悪いことをしたとは思わないけど、恭一さんを困らせたのは確かだ。混乱した頭の中でわたしが言えた精一杯の言葉だった。
 恭一さんはいつも通りの優しい微笑をくれると、返事の代わりに片手を挙げた。
 ゆっくりとアパートから遠ざかる恭一さんの背中はどこか翳りが潜んでいるようで、いつもと違って見えた。

 わかってないのはわたしのほうだ。
 それが恭一さんの姿を見た最後だった。

 次の日、恭一さんは職場に現れなかった。
 バイトのチーフが彼の代わりに入っていたけれど、無断欠勤するなんて珍しいこともあるものだと、皆が噂した。
 わたしは昨日の一件を思い出し、どんな顔して会えばいいか悩んでいたところだったので、内心ほっとしていた。
 言いようのない不吉な胸騒ぎを感じてはいたが、それほど気にならず、いつも通りバイトを終えるとアパートに帰った。

 翌朝、わたしは携帯電話の着信音で目が覚めた。のそのそベッドから這い出して表示を見ると、バイト仲間の伊原さんだ。
 今日のバイトは午後からだったはず。こんな朝早くから何の用だろう。
 仕方なく電話に出ると、けたたましい彼女の声。
 「今日の新聞読んだ?」
 「読んでない。新聞とってないから」
 「落ち着いてよく聞いて。店長が……、店長が亡くなった」
 携帯を耳に当てたまま固まる。伊原さん、冗談キツイわ。
 「うそでしょう」
 「うそでこんなこと言わないってば。昨日の夕方、T市のロイヤルマンションの屋上から飛び降りたんだって。事故と自殺の両面で捜査するらしいよ。それで、今から――」
 電話をわざと切った。携帯が手から滑り落ちて床で横になる。
 悪い冗談だ。そうでなければ、まだ夢を見ているに違いない。全身の血液が抜けたかのように足も指先も冷たくなっていく。
 T市のロイヤルマンションは姉さんが飛び降り自殺した場所。
 携帯の着信音が鳴り、びくりとする。また伊原さんだ。
 「さっき、切れたから話の続き。今から、お店に来れない? お通夜の場所と時間教えるから。バイトの代表者が参列するけど、あなたも一緒に行くでしょ?」
 伊原さん、まだそんなこと言っている。わたしが本気にするとでも思っているのかしら。信じる訳ないのに。信じない。
 とにかく、バイトに行かなければ。早く行って、悪い冗談やめてよ、と言ってやるんだから。
 うそよ。うそ。そう呟きながら洋服に着替えた。
 玄関の外に出て、鍵を掛けようとしてふと見ると、小さな赤い郵便受けに白い封筒が差してあるのを見つけた。取り出して裏側に返すと、そこに書かれた文字が眼に飛び込んできて、一瞬血流が止まった。
 『佐伯恭一』
 わたしは部屋に戻ってためらいがちに封筒の端をはさみで切った。手紙の内容を知るのは怖かったけれど、恭一さんがわたしに手紙を残した意味を嗅ぎ取って、怯まず三つ折りの便箋をそっと開く。


     アキちゃんへ

 これを読む頃には、ぼくはこの世にはいないだろうね。
 月並みだけど、恋人の後追い自殺、と新聞に出ているかな。かっこわるいよね。
 ぼくは涼子を失ってからの三ヶ月、辛かったよ。なぜすぐに涼子のそばに行ってあげなかったのだろうと、ずっと後悔していたんだ。
 でもあの日、涼子のお墓の前できみに会って、涼子の大切にしていた妹のきみを、ぼくが守ってあげたい、そう思ったのは本当だよ。
 きみが知りたがっていた事実は、きみにとって辛いことかもしれない。でもきみには現実を見つめて生きて欲しいんだ。
 涼子は自分で命を絶ったんだ。浮気をしたのは涼子のほうなんだよ。
 ぼくとのほんの些細な感情のもつれから傷ついた涼子は、職場の上司と一度だけ過ちを犯した。涼子は自分を責め続けたよ。
 ぼくは涼子を許したかった。許したつもりだった。でも、ぼくの目の奥にあった、ひとかけの疑いが、重く涼子の心に突き刺さったのだろう。
 涼子とぼくとの想い出が美しすぎたから、一瞬でも涼子を許せなかったぼくを見るのが辛かったんだろう。いやそれ以上に涼子は自分が許せなかったんだね。
 あの日涼子は、ぼくをあのマンションに呼び出して、殺して欲しいと頼んだ。
 そんなことぼくに出来る訳ないだろう。断ると涼子はとても悲しい目をして微笑んだ。
 そして、ぼくの目の前で屋上から飛び降りたんだ。とても悲しい目だったよ。
 涼子の死を止めることが出来なかったのは、ぼくの罪だ。
 涼子のすべてを許すことが出来なかったのも、ぼくの罪だ。
 それはぼくが殺したと同じだ。
 ぼくは涼子を愛していた。だから一人で死なせてはいけなかったんだ。
 きみは誤解しているようだけど、ぼくはきみと涼子を重ねて見てはいないよ。きみはきみだ。ぼくの大切な妹さ。
 残念なのはきみをずっと守ってあげられなかったことだ。弱いぼくを許してほしい。
 最後にきみにお願いがある。
 これから先、辛くて泣きたくなる時があるかもしれない。でもどうか、泣かないで、笑顔で強く生きてほしいんだ。それがぼくと涼子の望みだよ。
 ぼくが今、こんなに幸せな気持ちなのは、最後にきみに会えたからかな。感謝しているよ。

                                   ぼくの大切な妹、アキへ


 これが現実だと理解するまで、どれくらい時間が経ったのだろう。
 ごめんなさい、恭一さん。あなたの望みは叶えてあげられそうにない。
 体中が乾いてしまのではないかと思えるほどの涙が溢れ出て、子供のように大きな声を上げて泣きじゃくった。
 泣かないで、だなんて無理よ。
 わたしはこんな結末を望んでいなかったのに。
 わたしのせいだ。
 思い過ごしの恋愛に酔いしれていた自分を恨んだ。
 わたしの思い込みが恭一さんに死を決意させた。
 わたしの大切な人が、また、いなくなった。
 悲しさと悔しさの入り混じった涙はとめどなく生産され、いっそ溺れて死んでしまいたい。
 二人の絆の深さは始めから分かっていたのに。わたしが認めようとしなかっただけだ。
 姉さんのように、命を燃やしたかった。
 恭一さんのように、優しくなりたかった。
 悔やんでも、後悔の渦に沈んでいくばかりで、ただ無力な自分が悲しい。
 わたしは心の中を嘔吐するように、ずっとずっとむせび泣いた。

 次の日、お葬式の帰りに、実家に寄った。母の顔を見るのは四十九日以来。少しやつれた。
 今年は雛人形を飾らなかったの? と訊くと、喪中なのでお祭りごとはしないと言った。
 「箱に入ったままじゃ、可哀そうよ。姉さんのお雛様」
 そう言うと母は黙って頷き、立ち上がった。
 和室の押入れの奥にしまわれていた大きな桐箱のふたを開けて、一つ一つ白い紙に包まれた人形たちを取り出す。母と二人で包みをほどき、お人形を緋色のひな壇に並べていく。あの頃の姉さんと母のように。
 「思い出すわね、このお人形、涼子が……」
 母はそう言い掛けて、その先は声にならなかった。
 「気に入ってたわよね、姉さん。このお人形」
 わたしは手元のお人形に目をやりながら、母の言葉に続けた。
 母は頷き、瞼を押さえた。

 一番丁寧に包まれた紙の中にいたのは、細い目で上品そうに微笑むお雛様。
 白く美しい顔は姉さんに似ている。一番上の段の右側にそっと置く。
 その隣に並べるのは、恭一さんによく似たお内裏様。
 幸せそうな二人。

 このお雛様は姉さんのものよ。譲ってくれなくていいの。もう何も。もう誰も。
 お雛様は優しくわたしに微笑む。
 もう泣かない。雛人形になった二人にそう誓った。

 姉さん、わたしは生きていく。
 悲しみを咀嚼して、涙の血液を体中にめぐらせながら、
 わたしは、生きて、いく。
                                      
                                        了

ぼやきと反省とうろたえ人

kage

2009/03/23 (Mon)

MCを頼まれることがよくある。ちょこまか仕事があるって前回の記事にも書いたけど、これもそのひとつ。仕事としてやっている訳じゃないけどね。
ちょっとしたお祭りやイベントの司会進行係のことで、コンサートや結婚式のMCほどたいそうじゃありません。いや本当ぜんぜん大したことない。

日曜日は総勢150人位が集まったお楽しみ会(?)の余興として伝言ゲームをするので、その進行係をしてくれと頼まれちまった。
メインの司会者さんがかっちり堅い挨拶をされ、シーンとした空気になったところに私が軽い調子で登場するわけさ。静かな雰囲気の中で伝言ゲームを進行するのは私が辛いので、盛り上げようと頑張ったさ。
私の場合、予め台本は作りません。だって台本通りには行かないし、棒読みになると白けるのでアドリブでやってます。お陰でたいてい失敗するんです。
私の説明不足のせいかルールが分からない人がいたり、伝言が途中で止まったり、ちょっとしたハプニングでありゃありゃどうしましょ!とアタフタしている様子がマイクを通して全体に聞こえてしまったりして。人前でしゃべるのは慣れているはずなのに、つまり落ち着きがないのです。
最後尾の人が間違った言葉を言うのが伝言ゲームの面白さでもあるんだけど、その人は大勢の前で恥をかくわけさ。その人にうまくフォローしてあげればよかったとか、参加してくれた人にお礼の言葉が足りなかったかな、とか、全体的に使う言葉をもっと選べばよかったかな、とか、いつも終わってから反省してます。舞い上がって何しゃべってるか分からなくなるんだもん。
他の司会の人は前日から話す内容を紙に書いて練習してきているのに、私は何も用意してない、まったくの行き当たりばったりです。それがいけない。周りに目が行き届く人ならいいんだけど、それが出来ない私は、みんなに楽しんでもらえたかどうか不安になる。結局自分の準備不足のせいなんだけどさ。

私がしゃべると大体失敗するかも。以前、真面目な会議で「今年度の反省点を言ってください」と言われ「反省することはありません。過去を振り返らないタイプです」と言ってしまって笑われた。みんな真顔で会議しているのに、ウケ狙ってどうすんだ!「お陰で場が和みました」と言われたけど、私はそんな役回りか? 会議に和ませ係が必要なのか? 
もうしゃべらんとこって思って途端に無口な人になった。ここでも反省。

私は落ち着いた女性を目指してきたつもりなのに!
いつも冷静沈着、言葉使いも丁寧、周りへの配慮を忘れない、そんな人になりたい。
いや無理。周りの人の私へのイメージとはかけ離れてる。
MCも堂々とやっているように見えて、実は小心者なんだってば~。引き受ける度にボロが出て落ち込んでるんだってば~。私にはできましぇん。おだててノセてやらせんといてください。(ぼやき)

クールなあいつ

kage

2009/03/17 (Tue)

冷蔵庫が壊れた…。
なんだかここ数日、買って来たブロッコリーやレタスがすぐ腐ったり、冷凍室のアイスや冷凍食品が柔らかくなったりしてるとは思っていたけれど、鈍感な私はすぐ気がつかなかったのさ。でも冷蔵庫を開けた瞬間のひえ~って感覚がないの。
おかしいなと思って冷蔵庫の中に温度計を入れてみたのね。
するとなんと、冷蔵室14度!だめじゃーん!冷蔵庫じゃないよ、それ。
ヤバイと思って温度調節を『強』にする。そしたら、急にブィィーーンと唸りだしたんだ。冷蔵庫くんも冷やそうとして必死なんだね。頑張れよー。冷蔵庫くん!
んでも、しばらくして、また様子を見に行くと、
シーン……。音がしてない。死んだか……。
さっきのブィィーーンはウルトラマンのカラータイマーだったのか!
ピコン!ピコン!ピコン!ピコピコピコ!ピ……プツン!
冷蔵庫くん、最後の力を使い果たしちゃったんだね。
深夜に帰って来た同居人に「冷蔵庫か壊れた~」と言うと、「冷蔵庫ってどうやって直すの?」と言いやがった!
知るかい!私にきくな!
「取り扱い説明書見せて」だって。
自分で直す気かい!フツーのサラリーマンに冷蔵庫は直せんって!
とにかく、動かなくなったし、買い換えるか!てな訳で、電器屋のチラシを見てみると、今までの同じサイズで65000円!限定5台!だってさ。
明日、朝イチに買いに行ってやる!
うえ~ん!定額給付金でエアコン買い換えようかなー、パソコンももう一台欲しいなー、テレビも地デジ対応にしたいしー、って考えていたのに~!っつーか、給付金そんなにもらえないってば。夢ふくらみすぎ。
しょうがないので、冷蔵庫の中の牛乳やヨーグルトが無事でいてくれよーと祈りながら、その日は寝ました。

次の日の朝、冷蔵庫の様子を見に行くと、ウイ~ン!動いてるよ!生き返った!
でも室内温度をみると、12度。うーん、やっぱりダメか。
ん?動いてるけど冷えてない?だったら修理で大丈夫なんじゃない?
そう思って電器屋に行くのは止めて、修理屋さんに電話したら、すぐ来てくれました。
修理屋のおじさんが、「冷凍室の裏を開けて見ますので、中身を出してください」と言うのでその通りにしたら、出るわ出るわ、化石が!もはや何の化石か分からないシロモノが!
発掘してる場合か!

故障の原因は、霜が詰まって冷気が全体に回らなくなったからだそうです。霜取りの機能はあるんだけど、そこが故障したんじゃないか、とのことです。
応急処置をして部品の取替えは後日ということになりました。化石を捨てたら冷凍庫がスッキリ~。
元気になった冷蔵庫くんは、ウイ~ンウイ~ンと張り切って音を立てています。
それにしても、修理と出張費で約11000円。新品買うより安く済んだけど、定額給付金分が冷蔵庫の修理代に消えていくとは……。ちょっと複雑。

新テニスの王子様

kage

2009/03/05 (Thu)

新連載スタートです。
ジャンプSQ4月号の発売日、お店の開店と同時に買いに行きましたよ。おうちに帰って読むのが待ちきれなくて、お店の駐車場に停めた車の中で読んじゃったよ。

読む前の私の予想は、前回が全国大会で優勝をめざすお話しだったので、次は世界大会なのかな~っと。高校生になった青学メンバーと他校のライバルたちが同じチームになり、不二兄弟や手塚&跡部の夢のダブルスを見せてくれたり、ありえない大技を出しまくったりで、さらに強い敵に挑む!な~んてお話しなんだろうな~と思っていました。
……まぁだいたい予想通りですね。つーか、誰でもそう思ってたっつーの。
予想と違ったのは、彼らがまだ中学生だということ。
うっそー!
夏の全国大会で華々しく引退!…するのではなく、秋からは中高生合同U-17(アンダーセブンティーン)日本代表選手を選ぶための合宿に参加するという、忙しい人たち。
大丈夫かー? ちゃんと授業受けてるかー? 受験勉強したほうがいいんじゃないのかー?

そんな心配は置いといて、まだ一話目なので主要メンバーの紹介ぽい流れで話しが終わっちゃいましたが、二話からは面白い展開になるそうなので、楽しみです。
かつてのライバルが仲間になり、でもその中で代表に選ばれるために競い合い、さらには高校生や外国選手のいっそう強い敵も現れる。想像しただけでわくわくしちゃいますね。
今までのテニプリは序章に過ぎなかったそうです。九年も連載してたのに。
あれが序章なら今後はどうなってしまうの!
今月からジャンプSQの売り上げ伸びるんじゃない?女の子が買うもん。きっと。

ちなみに『ジャグマンガ日和』もけっこー好きだったりします。漫研の大学生が描いたようなタッチで、誰でも漫画家になれるんだな~と思ってしまいます。
月刊誌だから他の作者さんは時間をかけて丁寧に描いている中で、ひとつだけコロコロコミックから間違ってこっちに紛れ込んだみたいになってます。
でもすきです。テニプリ読んだあと二番目に読むのはこれです。