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カテゴリ:おいしい読書 の記事リスト(エントリー順)

『忍びの国』 和田竜

kage

2016/08/15 (Mon)

私は歴史小説は苦手意識があり読んだことは無かった。歴史に詳しくないし硬い文体が読み辛く、内容が入ってこないと思ったからだ。
だがこの小説は違った。

『天正伊賀の乱』の史実を背景に描かれているそうなので「歴史小説」なのだが、スリルとアクションの夢の中のような世界へと連れて行かれてしまう。
登場人物すべてのキャラが際立って、主人公が誰だか初めはわからないくらいだ。
とは言っても主人公は伊賀国随一の腕前の忍び『無門』なのだが、やっと彼が登場するのは49ページ目。それまでの硬い歴史書のような文のイメージをひっくり返す飄々とした登場なのだ。ただし飄々としているのは言葉使いだけ。初っ端からいきなり、背後から飛んでくる矢を見ることなく後ろ手で掴むという、かっこいいヒーロー的に現れるのだ。
無門は伊賀随一の忍術の使い手。銭のためなら罪悪感無しに人を殺す。だが普段は美人の女房『お国』に頭が上がらない、へらへらした怠け者。
お国は美人で気品が高く、稼ぎの少ない無門に文句ばかり言い家を追い出すのだ。そのため無門は面倒を見ている『鉄』という少年の家に居候している状態。
鉄も伊賀者だけど、まだ子どもなので純粋さがあり無門を慕っている。
無門はお国をさらって来た2年前から殺しをやめ不精に暮らしていたのだが、雇い主から高額の報酬を提示され2年ぶりに人を殺める。それが伊賀の忍びと伊勢の織田軍との壮絶な戦いのきっかけになるのだ。

伊賀の国では農民を下人として忍びの術を叩き上げ利用していた。無門もそのひとり。伊賀の忍者たちは仲間を平気で見捨て裏切る。銭のためには殺しもする。
やがて、伊賀国では下人や侍同士の争いが続き、報酬の出ない戦いはやりたくない連中は逃げようとするのだが、結局無門は戻ってくるのだ。
無門のお陰で伊賀軍は圧倒的勝利のはずだった。無門は伊賀の国の支配者に反抗するが、そのため仲間であったはずの伊賀忍者たちからの裏切りに合い命を狙われる。
しかし無門は下人の攻撃などさらりとかわす。ところが助けに来たお国が殺されてしまうのだ。そこで初めて大切な人を失う悲しみを知るのだった。
お国を失った無門は姿を消し、無門のいない伊賀国はあっさり敗北。お国の思い出と共に鉄とひっそりと暮らそうとするが、やはり命を狙うものは、またもや現れるのだ。

作中に登場する平兵衛。無門と互角か?と思わせる腕前だが、人の血が通っているのはこの人だけかと思うほど道徳的な人。
無門に弟を殺されるが、それに対し無関心な父親に絶望している。
彼の発した「伊賀の者は人間ではない」
伊賀者をひと言で表わした印象深い台詞なのだが、それを受けて無門がラストに「おのれらは人間ではない」と言うのだ。人の心を持たぬ無門が言うからこそ意味のある言葉。無門にとってお国は「まともな人間になる唯一の手がかり」と書かれている。

けれども、この作品は、伊賀者だけでなく、誰が敵なのか味方なのか分からなくなるほどの、人間の嫉妬、恨み、裏切り、妬み、野心がひしめき合っている。
ナルトのような愛のため仲間のために戦うなんて美しいものではない。身勝手な人間どもの集まりだ。
すべてに裏があり、心の闇が赤裸々に描かれ、人間ってそれしかないのかと思うくらい辛くなるお話。人が虫けらのようにバタバタと死んでいく。主人公である無門でさえ、薄ら笑いを浮かべながら人を殺める男だ。
お国に「卑怯者」と言われても、無門にとっては卑怯を尊び他人を欺くことが忍術の本道と教えられているのだから、他人の不幸をあざ笑うことなど日常なのだ。

そんな殺伐とした作品の中で、人間味が描かれた場面と言えばここ。
高圧的で幼稚で神経質でうざい織田信雄。この男が父に禁じられた伊賀攻めを勝手にやってしまうのが争いの発端なのだけど、一つ目のクライマックスシーンは、「父である織田信長に無視され続けた私の気持ちがわかるか」と言って家臣らの前でおいおい泣く場面。似た場面を大河ドラマでよく観る気がする。
平兵衛の弟も同じ。嫡男以外は大事にされない戦国の世の悲しさ。

そして、平兵衛との一騎打ちで無門は、平兵衛から裏の陰謀の全てを聞かされる。
「伊勢の者は助けてやってくれ」と残し死んでいった平兵衛に無慈悲だったはずの無門が少しだけ情をかけてやるのだ。これまでは仲間が目の前で殺されても死体を蹴って進む無門が、敵に「伊勢の土地に葬ってやってくれ」と頼むのだ。さらに「かわいそうな奴だ」とつぶやく。
この男にも人の心があったのかと思わせる場面。と言うより、今までは人の心を押し殺して生きてきたのかもしれない。
この作品の最高のクライマックスシーンはお国が亡くなる今わの際で、お国が「本当の名を聞かせて」と無門に問う場面。無門はあだ名であって本当の名ではない。
毒の矢が刺さり息絶えようとしているお国を抱きしめながら、無門は自分の半生を泣きながら語るのだ。地の文で語られた無門という男の本心と生き様。もう悲しくて。涙を誘う文章技術が巧みで、素晴らしい作家さんだ。

本能のままに生き、へらへらしてやる気無し。しかし本気を出したらめちゃかっこいい。
まさに無門は大野智そのものだ!
無門は味方にしたら心強いが敵に回したら怖ろしい。
強豪『大膳』との戦いで目にも止まらぬ速さで飛び回る。しかも重たい鎖帷子、鎖袴を装着した状態で。それを外した無門はさらに速い。「網膜に残ったわずかな残像はわが右手へ消え去っている」と描かれている。瞬間移動?
とにかくこの作品はアクションの表現が上手いのだ。無門の忍術や素早さの語法が豊かなのだ。読者が文字で読んでそのまま映像として頭に浮かぶ技術は、上級者じゃないとできない。
小説中盤から次から次へと惹きこまれて行く展開の早さで、途中で読むのを中断できなくなってしまう。
硬い歴史文学でなく魅力あるキャラの台詞の掛け合いや、ハラハラしたり笑えたり。映像で観ても絶対面白いと思う。原作を読んで結末を知っていても映画館で泣く自信あるわ。
構築された世界観を映像化したら、さらに見ごたえある作品になるのは間違いないでしょう。
来年の映画化。今から楽しみだ。



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感想(37件)




『リレキショ』 中村 航 

kage

2015/05/17 (Sun)

結局、半沢良は誰なのか。
分からずじまいだけど、ほんわかしたストーリーに、本当の正体なんてどうでもいいか、と思えてしまった。
なりたい自分になる。それがリレキショ。

主人公は姉と二人暮らし。アルバイト先に出す履歴書を書くところから、ストーリーは始まります。
ただ、通常じゃないのは、自分の学歴、生年月日、名前までも、想像して書いているのです。
そうして始まった深夜のガソリンスタンドのアルバイト先で、ひとりの少女と出会います。
出会いは思いがけないきっかけ。なんとも興味深い手紙を渡されて、主人公の「半沢良」は、まだ話した事のない不思議少女にはまって行きます。
本当は他人である「姉」との優しく穏やかな暮らし。少女の魅力的で奇天烈な手紙。深夜のガソリンスタンドでの静かな時間。
「半沢良」は、なりたい自分をリレキショに書き込み、自分を自分色に作っていきます。

彼を囲む人たちの温かさを、読み進めていくとしみじみ感じていきます。
そう、半沢良とは、弟でもないし、本当の名前も違う。なのに、それがどうしたの?とでも言うように、平凡で淡々とした暮らしがそこにある。

前に読んだことのある「100回泣くこと」でもそう思ったけど、この作者さん中村航さんは、ユニークだけど普通感のある、何気ない淡々とした日常を描くのが上手くて、だからと言ってつまらない文章でない。引き込まれる何ががある。そんなお話しを書く人だなあ、と思いました。
有り触れた生活を有り触れた感のない、冗長にならずに段々と興味をそそられる文に描けるのが、とても上手いなあ、と、うらやましい才能です。雰囲気のある文章表現が好きですね。私の理想の文体です。

結局、半沢良は誰なのか。

ほのめかし的に後半、彼の友人らしき人を登場させ、半沢良の過去を想像させる部分はありますが、最後まで、はっきりさせずに謎のまま終わらせてる。そこが、読者にいろいろ探りを入れさせるテクニックなのだなあ、と。
最初私は、彼は記憶喪失なのかな?と思ったけど、最後に本当の名前を名乗っている。と言うことは、意図的に昔の自分を封印していることになる。
しかし、素性を明らかに出来ない理由を、周りの人たちは聞こうとしない。そんな居心地のよさがある。

これからの自分は自分で決める。自分でリレキショに書き加えていく。
履歴書は過去だけど、リレキショは未来。

前向きに生きる爽やかな若さが印象的な小説です。

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感想(0件)


『マスカレード・ホテル』 東野圭吾

kage

2013/06/03 (Mon)

都内のある高級ホテルで殺人予告が?
刑事たちはホテルマンに扮して宿泊客を監視し張り込みをすることになった。優秀なフロントクラークの尚美とコンビを組まされた刑事新田は無骨で目つきの悪い、いかにもホテルマンらしくないタイプ。次々とおきるホテル内のトラブルを要領よく解決する尚美と、犯人逮捕に燃える刑事新田。反発し不釣合いのコンビかと思われたが、プロ意識の強い二人はやがて信頼感が芽生え協力し合うように。そしていよいよその日はやってきた――。

いっぺんに読めなくて、少しずつ時間をかけて読んだので内容を忘れてしまって、それまでの登場人物の名前がわからなくなったり、あやふやになったりしたのだけど、後半はスピード感ある追い上げで、先が気になって一気読みしました。ミステリーをあまり読んだことがない人でも読みやすい作品だと思います。専門用語的な難しい言葉も無いし。
前半のストーリーとしては、ずいぶん前のドラマ『ホテル』のようでした。宿泊客が次々とトラブルをおこし、ホテルマンのプロフェッショナル精神で解決していく、という、殺人事件とはと関係なさそうな人たちが現れて…。いったいいつ殺人事件は起こるんだ?もしかして事件は起こらないってこと?
と、中盤まで思ってました。でもそこから急展開します。

私は東野圭吾作品はあまり詳しくないのですが、基本的に、この人はドラマ化映画化を意識して作品を描かれるタイプなのかなあ。という感想がまず先に浮かんでしまいました。読んでいて、「映画っぽい」「ドラマにありそう」な映像ばかり想像してしまう。
おまけに、映像化されたら配役は誰かなって、勝手に自分で決めた役者さんで頭に浮かべて読んでしまった。
ちなみに、主人公「山岸尚美」は『本仮屋ユイカ』 「刑事新田」は『山田孝之』さんなんてどうでしょう。
真面目で清楚な顔立ちの女優さんと、ワイルドで目つきが悪くフロントが似合わなさそうな俳優で、想像してみました。
他には、松下奈緒、市原隼人なんて、いいかも?

犯人は意外な人物だけど、二時間ドラマなら、最後にこれまでにまったく登場していなかった犯人が現れるのではなく、それまでいい人だと思っていた人物が犯人でしたってのがお決まりパターン。そういうところがドラマを意識した作品ぽい。
新聞テレビ欄の名前の順番が、主人公二人の次の、三人目に名前がある人が犯人っていう、いつもの決まりごとね。

もうぜったい映画化されるに決まってるじゃーん。
果たして私の勝手なキャスティングは当たってますでしょうか。

マスカレード・ホテル

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『かわいそうだね?』 綿矢りさ

kage

2012/12/22 (Sat)

【1000円以上送料無料】かわいそうだね?/綿矢りさ

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感想(0件)




 綿矢りさっぽい作品。恋愛ベタで優柔不断な男に振り回される女性主人公の話は、これまでの作品でありがちでしたが、今回は最後に胸がすっとする結末が待ってました。
“かわいそう”なのは誰なのか。

 あらすじと感想です、ネタばれ注意。

 百貨店勤務の女性主人公は、ある日彼氏から「元カノを自分のアパートに居候させることを許してほしい」と言われ、納得いかず喧嘩になります。元カノは失業中でお金もなく住む家もなくてかわいそうだから、自分の部屋においてやりたいと彼は言うのです。
 その時点で私なら「さようなら」なんだけど、この主人公は彼を愛するあまり仕方なく折れることにしたのです。彼の言う「愛しているのはお前だけ。元カノへの恋愛感情はない」の言葉を信じて同居を許し、この状態のまま付き合いを続けるのですね。
 はぁ?ありえない。彼氏のお人よしにも程がある。…と、私と同じく一応主人公の女の子も思うのだけれど、その後も変わらずデートを繰り返す二人なのです。彼女は平常心を保とうと自分の心の中でもがくわけですよ。そりゃそうですよ。彼氏は毎日別の女のいる部屋へと帰っていくのですから。
 その元カノというのは、やぼったくて地味な見た目。無頓着で大ざっぱ。女の色気もなく、仕事もお金もない。華やかな自分と比べみじめな元カノに同情した主人公は、哀れに思い同居を黙認するのだけど、それはつまり「私は本物の恋人。あなたは同情されているだけ。かわいそうな人」といった、言わば優越感を抱いて見下していると同じ意味。彼氏はクリスマスも誕生日も自分と過ごしているのだし。
 でも、そう思わないとやっていられません。そんな男を優しすぎると見るのか。ただの配慮不足のデリカシーない病と見るのか。その判断ができない時点で主人公に余裕がないのですね。
 
 そんな時、彼氏の携帯をのぞき見てびっくり。そこには元カノからの膨大な量のラブラブメールが。彼氏はクリスマスも誕生日も二人の女の間を行ったりきたりしていたのです。
 白黒つけようと、主人公は元カノがいる彼氏のアパートに乗り込むのです。そこで見たのは、元カノの趣味の悪い荷物が散らかり、過激な下着が部屋干しされている、無残に変わってしまった彼の部屋のありさま。
 もうブチ切れました!部屋で大暴れ!しかし強かな元カノは冷静な反応。元カノは仕事を探して部屋を出て行く気などない、弱い女のフリをして虎視眈々と彼氏を奪い取ろうとする、性悪女だったのです。やっと気づいた主人公。修羅場へ突入ですよ。

 結局、元カノ自身は自分のことを“かわいそう”だとは思っていない。
「困っている人」と「かわいそうな人」とは違うのだと綿矢は書いています。かわいそうとは憐れみの言葉。かわいそうな人などいないのだと。
 修羅場を目の前にしても、「愛しているのは君だけ。元カノとは友達」をまだ言ってのける彼氏の無神経ぶりには、飽きれるしかありません。その愛している彼女を悲しませ、もう一人の女も不幸にしている。そこに気づかないダメ男はいつまでもダメ男。一生やっとれ!
 もっと早く暴れてやればよかったのに。きっと主人公にはもっといい男が似合うし、アホ彼氏と元カノのバカップルのほうが釣り合うんじゃない?

 あぁ、何なんだ、このスカっとした痛快さ。たぶん綿矢りさ作品にしては珍しい結末だからかな。主人公の品性変わっとるやん。関西弁になっとるやん。

 堂々とした失恋を選んだ主人公に幸あれ。

『BLACK』 山田悠介

kage

2012/04/27 (Fri)

ブラック

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4話からなる短編集のようで、実はつながったおはなし。
それぞれ主人公は違います。
1話目は、事故で体が不自由になった野球少年と、引退間近の中年野球選手の交流のおはなし。2話目は不治の病気のため親から捨てられ、南の島に隔離された子どもたちと、彼らに寄付する謎の人物のおはなし。3話目は、都会のカラスが、毎日えさをくれる病気の少女に恩返ししようと計画実行するおはなし。4話目は……。

無礼を承知で辛口感想を書かせていただきます。
1話目を読み終わって、もうこの本、読むのやめようかと思いました。「中学生日記」にあるような、ありがちで古臭いベタな設定で、ふたりの会話もありきたりで捻りがない。話の展開も安易に予想できた。これのどこがいいか、さっぱり分からない。次の2話目3話目も同じようなもん。
けれども、4話目で急展開。これまでの3つのおはなしは、言わば前フリ。4話目がメインだったのですね。はじめのつまらないお話しは、ここにつながっていくためだったと言うわけですか。そういうことなら、納得です。

しかし、おススメ度は5点中1点くらいかな。これまでに名作と言われる文学作品を読んだことのないような、ケータイ小説しか読まないのに、「趣味は読書」と言うような小中学生には、うける本だと思うけど、小説を読みなれている大人には、おススメできません。
なぜなら、簡単な文章で難しい言葉はほとんど無く、短時間で読める点はいいのですが、会話と地の文の運び方が幼稚だし、一文が長くはじめと終わりで文章が繋がらない、言葉の選び方が的確でなく理解しづらいなど、文章力に疑問点が多いから。高校の文芸部の文集にありそうなレベル。

たとえば、この文
『私は二人とは対照的に、ミサっていうんだ、と心の中で言った』
これは、死んだはずの娘が目を覚まし、驚いた両親が「ミサ」と叫び駆け寄ったという説明の後にくる文なのだけど、「対照的に」の意味が言葉足らずで伝わらないのです。
つまり、息をふき返した娘を見て慌てふためき、驚きの表情を見せる両親の様子は、外から見ても分かるのだけれど、心情までは分からないはずです。娘は自分が誰なのかも知らないのだから。それなのに、娘は記憶が無いのだけど、自分の名前を知らされて、冷静な態度でいるのは、慌てる両親と比べて対照的だと自分で客観的に見ている、ということになる。
要するに、普通に考えれば比較の対照は同じでないといけない。「慌てる両親と対照的に」の下に続くのは「落ち着いた私」であれば自然なのに、「両親の様子」と「心でつぶやいた言葉」で比べている。腕のある作家ならば、それほど問題点に思えないように上手く描くでしょう。でも「対照的に言った」などというおかしな表現をするので、文がうまく繋がらない、ということです。

ここは小説全体のクライマックスの部分なのに、細かいことが引っかかって、あと味すっきりせずに読み終わってしまったじゃないか。
私のように必要以上に詮索しすぎて楽しめない読者もいるのです。
追求せずに楽に読んだほうがいいですよ。そう言った意味でも、小中学生向きの本かも。



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『号泣する準備はできていた 』江國香織

kage

2012/03/17 (Sat)

号泣する準備はできていた

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私は泣きたいのだろうか。本を読んで泣きたい願望があるのだろうか。
図書館で、泣けるであろう本を見つけると、つい手に取ってしまう。

女性視点で書かれた作品が並ぶ短編集。
正直な感想として、あっさりしすぎ。どこにでもある日常が淡々と書かれ、読み終わった直後に「……それで?」と頭に?が浮かぶ。
だから何?と言いたくなるオチも何もないラストに意表を衝かれ、逆にモヤモヤさせられる。
私が読み取れないだけで、実は裏に隠されたメッセージがあるのか。これは伏線なのか。深読みしようとしたけれど、おそらく何もない。本当に日常のひとコマを切り取っただけのお話し。

江國香織の女性的な文体はとても好きなので、この日常はリアルに私の中に入ってきた。
恋人への不満。夫婦のすれ違い。日常に物足りなさを感じる、そんな女性たち。
おそらく10代の頃の私なら、まったく理解不能な世界だったのかもしれないが、少し大人になった今では、この「あるある」と思われる出来事や女性たちの思考が、すんなり理解できてしまう。
「あなたのことがわからないわ」と言う妻に、「なぜすべてわかろうとする?」と聞く夫。
女はいつも夫の事をわかっているつもりだったり、わからないことに不満を抱いたりしてしまいがちだけど、実際は思い込んでいたことは間違っていることも多く、相手のすべてを理解することなど無理な話で、そう思えばあれこれ思い悩むことすらバカバカしいことだ。

「号泣する準備はできていた。それなのに泣けない」
そんなもんだ。日常生活なんて。ドラマチックなことなんて転がってやいない。
そういった意味では共感できる。大人の女性に読んでもらいたい本だった。

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『阪急電車』 有川浩 

kage

2012/02/23 (Thu)

阪急電車

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感想(37件)





おもしろかったー。
現実にありそうでなさそうな、実にうまく出来たオムニバス形式。
ひとつひとつは違う話なのに、1話の話しが2話でつながり3話でもつながり、を繰り返す、1冊でひとつの物語になっている。短編連作はいくつか読んだけど、これはそれぞれが前向きだからか、読み終わって爽快感が残る。

普通はたまたま同じ電車に乗り合わせた知らない者同士で、急にぺらぺら話さないでしょ、という違和感はあるけど、関西なら当たり前の光景かもしれない。関西人は人なつこいから。
私は京都に住んでいたこともあるので、阪急電車というタイトルで、懐かしさからついこの本を手にとってしまった。
でも私の利用していたのは阪急京都線。ここに出てくるのは今津線。乗ったことないし、どこを通っているのかも知らなかった。もし利用者ならここに出てくる車内から見た風景を、うんうん頷いて読めるのだろうけど、知らない私は想像するしかなかったのだが、それでも充分楽しめた。

特に2話目に出てきた女性は印象的。
同僚の女に5年付き合った彼氏を寝取られ、その二人の披露宴に白いドレスを着て出席し、討ち入りを果たした、という女性。
度胸と潔さがかっこよくて、今後の彼女の人生を応援したくなる。

作者さんは女性の心理も男性の心理も描くのがうまい。ついでに言うなら女子高生も老婦人も。個性様々な登場人物を、電車の1区間で表してあり、どれもこれも何度読み返してもおもしろい作品だった。

去年映画化されたそうで(観てないけど)。ほぼ原作どおりに作られているらしい。出演者をみても原作のイメージ通りで映画のほうもぜひ観てみたい。

感想とは関係ないけど、大阪の地下鉄に乗ったときこんなことがあった。
ホームで電車を待っていたら、私の前に脚のすらっと長い背の高い女性が立っていた。パンツの線ぎりぎりの超ミニスカートをはいている。周りのサラリーマンたちは前に行けばいいのに女性の後ろに並んでいる。視線は全員彼女の脚へ。
電車に乗り込むと女性はドア付近に車内に背を向けて立っている。サラリーマン連中は相変わらず彼女の脚&おしりをジロジロ。
でも私はなんだか違和感を感じていた。だってスタイルのいい女性にしては、おしりがペタンコで骨盤が張ってない。まさかと思って女性の正面が見える位置に移動して顔を確認。すると、やっぱりあったあった。口の周りに点々と生えかけのおひげが。
ぷぷっ。あほども。あんたら脚ばっかり見てるから気付かないんだよ。
近くに本物の女(私)がおるのに。あんたらが見て喜んでんのは、自分とお仲間の脚ざんすよ。
…と、含み笑いをしながら電車を降りたのであった。ちゃんちゃん。
おっと。本の感想じゃなかった。でも小説のネタになりそう?


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『記者は何を見たのか』

kage

2012/02/09 (Thu)

各地の読売新聞社の記者たちが、東日本大震災の被災地を取材した体験記。


記者は何を見たのか - 3.11東日本大震災

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新聞記事というものは、事実のみを淡々と記述してあるものだ。でも震災記事を読んだ私は泣いたり怒ったり、救出された記事には喜んだりしてしまう。
現場を目撃していない者でも感情移入してしまうほどの悲惨な大災害だったのは言うまでもないが、限られた文字数で被災者の背景までも察することが出来るのは、想像を超える惨状を、途方に暮れ立ち尽くし涙を流しながら書き上げた使命感が、その記事に刻まれているからだ。

この本に書かれた手記には、津波で家族を失った悲しみ、原発事故で故郷を失った絶望、そんな被災者たちの声を伝えきれたのか、自分に何が出来たのか、自分のやるべきことは…と自問する記者たちの悩みや正直な告白が多く書かれている。

ある記者は、被災地の取材に来たものの、被災者のために出来ることがなく、道端に遺体を発見して誰かに伝えても収容しきれず放置するしかないと言われ愕然とした。被災者の求めているのは新聞記者の手ではなく、市の職員や消防隊員の手だ。自分は遠くからやって来て、いったい誰の役に立っているんだ。と虚しさで頭がいっぱいになった、と綴っている。

またある記者は、宮城を取材中、遺体安置所で夫の遺体と対面し乳幼児を抱えた女性が泣き崩れていた現場を目撃する。取材に応じてくれて気丈に語ってくれる女性の前で泣くわけにも行かず、話しを聞き終わるとトイレに駆け込み号泣した、と書いている。被災地で復興復旧が進み始めた一方で、いまだ前に進めず苦しむ人も大勢いる。記者はそういう人を置いてきぼりにせず、現状を伝える義務がある。と書いている。

被災地に足を踏み入れ被災者の話を直接聞いた記者は、遠くにいる私よりもずっと、悲しみ怒りを共有し感情移入している。

そして、この本には原発や官邸について赤裸々に書いた手記もある。
私は地震後、週刊誌やネットニュースで当時の首相や東電社長のおばかぶりを見て怒りが爆発していたのだが、週刊誌なんてウソか本当か分からないからな~と思っていた記事の内容は、どうやら本当だったようだ。
読売新聞の記者が実名を出して、堂々と首相の過ちや、政府の未熟な対応に触れている。
東電の無責任な体質にも具体例をあげて書いている。

たとえば、記者会見の冒頭はメモを取る手が止まるらしい。「このたびの事故により、広く社会の皆さまに…」とマニュアルに沿った決まり文句だからだ。福島県庁に東電社長が訪問したときも、このお決まり挨拶から入ったそうだ。福島県知事に「福島県民に申し訳ないという気持ちがないとダメだ」と言われ「広く福島県民の皆さまには…」と言い直したらしい。そういうことじゃないだろう。
東電は賠償責任から免れるために「予想外の天災だから仕方ない」を繰り返す、あきれた実態。常識がずれている。地震に予想外はありえない。
東電は官庁が関与することになって責任問題があいまいになってしまった、など、「無責任の連鎖」という言葉を使って、ズバッと書いてくれた豊田記者には心から拍手したい。

原発関係の取材記を読んで思ったのは、福島県民は原発の知識が深いことだ。
私は島根原発20キロ圏内に住んでいる。島根は全国で唯一県庁所在地に原発がある。県庁は9キロ圏内。
もし今島根に原発事故が起こったら、そう考えてもどうしていいか分からない。実家も30キロ圏内。人口の少ない島根県は、松江市に人口が集中している。そこが危険と言われて、いったいどこに逃げればいいの?先日の新聞に避難場所の案として載っていたけど、それって原発事故が起こる可能性ありと考えていますって意味だよね。
不安になっても、どうすることもできない。それが原発を抱えた県民の運命でしょうか。

震災直後の被災地はテレビも映らない、インターネットも使えない、ラジオも乾電池がなければ聞けない。そんな中で新聞は唯一の情報源だったといえる。
この本にある78人の記者たちの使命感あふれる記者魂には感動した。新聞はただの薄っぺらい紙。だけどその1ページの裏に、伝える責任に心を燃やす記者がいることを忘れないようにしよう。


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